岡山駅から西北へ車で30分ほどの位置にこの家はある。
築後およそ100年を経た農家の再生計画であり、建主は美容院を営む主婦とその夫である。建主は、この農家を探しあてるまでに多くの時間をかけており、この家の再生は、朽ち果てようとする家への愛着と尊敬の念から発している。建主には、この地域の自然環境のなかで昔からの暮らしを継承しながら、多くの人たちとの交流を深めていきたいという要望があり、設計者はそのことによく応えており、単なる再生ではなく、創造性に富んだ新たな空間を生みだしていることが高く評価された。母屋、離れ、納屋、牛舎などが高低差のある地形のなかに新たな機能をもって再生された。ここには、高断熱、高気密、太陽光発電、雨水利用などへのこだわりは少ない。ごく自然に採光・日射・通風を生かしている。冷房はなく、暖房は薪ストーブである。薪は里山から採取している。暮らし方も簡素である。近くでとれるものは食し、米もつくっている。この家では、しばしば手作りのパーティー、小さな音楽会、展覧会などが開かれ、多くの人が集まる。個人の住宅でありながら、地域の人びとにも開放されている。萱葺き屋根は、ガルバリユーム鋼板で覆われているが、ヴォリュームは小さく、他の付属屋の瓦屋根とともに樹々のなかにすっぽり納まって、この地域の景観の要素となっている。
この家で評価されるべきことは、貴重なストックを生かし(古材の梁50%、柱30%を使用している)、自然との対話を深め、環境の保全に貢献していることであり、建主と設計者の息のあった協力がそれを可能にし、優れた建築を生み出したことである。
(池田・林・高間) |