講 評: |
本作品は、倉敷における設計者楢村徹氏の膨大な古民家再生の仕事の一環としてある。日本の一般的な都市の生活環境から歴史性や景観といった本来所持すべき環境資源が失われてすでに久しい。それに抗うまちづくりの運動や試みは多々あっても、遅々としてその改善は進まない。設計者はそうした運動からは距離を置き、建築家の本分として個々の古民家再生に向き合いながら、結果として力強いまちなみ再生に資する実に多くの仕事を実現してきた。もちろん、倉敷というかつての天領がつくりあげた重厚な資源の蓄積がその背景にある。しかし、だからこそ、そこに生まれ育った建築家として、廃屋同然だった古民家の再生に取り組みながら、住み手の琴線に触れる建築デザインを展開してきた持続的な熱意と力量は高く評価されるべきである。
恒見邸に見られる典型的な和洋が共存するその折衷的で饒舌なデザインについては、恐らく評価は分かれるであろう。しかし、美観地区を中心に広がる家並みのなかでそうした倉敷らしさを追求するとともに、ストックの再生というこれからの日本の新しい環境建築のテーマに挑み、多くの住み手に力強く支持された仕事の社会的意味は大きい。その代表的作品として恒見邸再生工事が環境建築賞住宅部門の最優秀賞に値すると評価された。
(岩村和夫)
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