JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.317茨城県営長町アパート
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竣工時 撮影:松岡満男

現況 撮影:富永譲・フォルムシステム設計研究所
富永譲・フォルムシステム設計研究所
横須賀満夫建築設計事務所
茨城県
瀬谷工業(1期)塙建設工業(2期)富士開発工業(3期)
1999年3月
茨城県水戸市
過去10年間でJIA25年賞に選ばれた集合住宅は3件ですが、いずれも民間のもので、この作品のような公営集合住宅ははじめてです。公営集合住宅は低所得者向けのものが多く、イニシャルコストが抑えられメンテナンスは最小限です。ここも例にもれず、大規模なメンテナンスは今までなく、塗装の劣化が所々に見られます。中庭にあった3本の樹木は伐採されたあと1本だけ補充されましたが、この集合住宅を特徴づける、各住戸入口前の小さな光庭を彩っていた竹は残念ながら伐採されたまま、後には数本の低木が残されているだけです。工夫を凝らした玉石の洗出し舗装や芝生、片隅に置かれた木製ベンチなどにも痛みが目立ちます。このような状況でもこの集合住宅を25年賞に推薦したのは、この建物が雑多な周辺環境の中で今でも美しさを保ち、凛として建ち続けているからです。それには、建築家の力量が大きく貢献しています。主要壁面を構成する焼付鋼板のサッシュ一体型外壁パネルの採用、雨水を避ける小庇の連続する壁面、シンプルなディテールがそれを担保しているようです。さらに敷地の不整形な輪郭を緩くトレースした外壁や庇のライン、中庭の開放性を高めるため1階の階高を高めた西棟と他の棟との関係が単調に陥らないリズムを生み出し、都市景観に貢献しています。
たまたま空いていた住戸内部を見せていただきましたが、壁面のポリ合板などは今でもきれいで、間取りも各個室の開放性が高く全体に明るい印象です。中庭を介して適度な距離感で隣家と向き合うキッチンと広い開口部は住戸の開放性を担保し、コミュニティー形成の足掛かりになりそうです。今の若い人々は「住み開き」に興味を持つ人が多く、このような住まいをうまく活かしてくれそうですが・・・。
JIA25年賞は、人々の活動にさまざまなかたちで関わり、長年にわたり良い意味で支えてきた建築を顕彰するものだと思います。直接的な関与もあれば、環境や景観を形成するような間接的な関与の仕方もあるでしょう。直接的な関与では、個人的なものや多くの人々に開かれたものなどさまざまですが、そこには建築としての優劣はない、と思います。
多くの人々に開かれ、愛される建築をつくれた建築家は幸せです。しかし、25年以上に渡り、少数の限られた人々やたった一人の個人にだけ愛された建築であっても、客観的にも優れた建築で、周囲の環境や地域の人びとと良好な関係を築いていると判断できるものは、JIA25年賞に推薦される条件として不足はないと考えます。この集合住宅がその好例になっていると思います。
高橋 寛