JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.328ニシザトテラス(旧 小国町立西里小学校)
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竣工時 撮影:計画・環境建築

現況 撮影:小国町
設計:木島安史+株式会社計画・環境建築
改修設計:株式会社梵まちつくり研究所
小国町
新築:株式会社橋本建設
改修:(有)鳩野建設
1991年9月
熊本県阿蘇郡
「旧小国町立西里小学校」は、建築家・木島安史の設計で、1991年9月に、かつての校舎があった敷地の道路を挟んで南側に新築された。その当時の生徒数は22名だったという。
小国町西里は、町の最北部で大分との県境に位置する小さな集落群からなる地区だが、小学校の創立は古く、1875年(明治8年)に遡る。それゆえ小学校の統廃合の流れに抗い、新校舎を建設することは地元の矜持であった。その想いを受け止めた木島は、ドームというシンボリックな造形を与えつつも、それを小国町産のスギ材を使用し、地元で容易に加工可能な接合部でつくる方法を考案するなど、学校建設が地域社会経済へ貢献できるような提案もしている。
しかし、人口減少の続く山間地の学校ゆえ、2009年3月には統廃合を受け入れざるを得ず廃校となった。しかし建物は解体されることなく、ときおり使われたりしながら残り続けた。再起動のときを待ち続けていた。
小国町は、2022年、旧小学校校舎の活用プロジェクトを始動させ、運営委託を隣町の南小国町で同年に創業したばかりの一般社団法人ウラニワに発注する。ウラニワは、校舎をリノベーションするイベントや、旧家庭科室を改造したカフェスペースでのイベントなど、改修工事に先行してにぎわい創出のためのアクションを興した。翌2023年、町はサテライトオフィスやコワーキングスペースとしての活用を目論んで改修工事を実施、「旧小国町立西里小学校」は「西里テラス」として再生した。
このような再生を果たし得たのは、そもそもこの建物が一般的な小学校のようにはつくられておらず、小さな家の集合体の中心にドームを戴いた広場を持つ建築あるいは都市空間の形式としてつくられていたからである。それゆえ学校という機能が消滅しても西里の地にあり続け、地域住民のための公的機能を果たし続けることができた。木島は当初よりそうした用途の遷移を予感し、持続可能性のある建築の形式をこの場所に置いたのだろう。時間の経過とともに変化する社会制度に従うのではなく、持続する共同体にとって有効な空間形式であることが、建築が本来果たすべき使命であることを木島は見抜いていた。そしてそれを感覚的に認知した小国町の人たちを、時を経て覚醒させた。これは建築の古典的形式が近代の機能主義に勝った事例だといってもいい。敬意を持ってJIA25年賞を捧げたい。
橋本純