JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.334パストラルタウン美しが丘
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竣工時 撮影:新建築社

現況
倉本龍彦・札幌建築塾/倉本たつひこ建築計画室
小室雅伸・札幌建築塾/北海道建築工房
圓山彬雄・札幌建築塾/株式会社アーブ建築研究所
宮下 勇・札幌建築塾/ゆいでく
H・I、 M・S、 A・M
清水建設株式会社北海道支店
1987年~1988年
北海道札幌市
札幌市清田区に1980年代後半に開発された郊外住宅地である。開発は清水建設であり、同社初の開発事業であった。一種の近隣住区を形成する計画のコアに小・中学校が位置し、これに接する24戸の設計に若手建築家の倉本龍彦・小室雅伸・圓山彬雄・宮下勇が起用された。それぞれに個性をもつ作品群だが、同時に彼らの共同設計による一体の作品ともいえる。これが今回の授賞対象である。彼らは新たに育ってゆくコミュニティの核となる良質な住環境の条件を議論し、共有した。小中学校へ抜ける軸線の設定など様々な項目があるが、ここでは2つのポイントに絞って述べよう。
第1に、隣地境界に塀を立てないこと。このため家の立ち方によって庭のひろがりが多彩に生まれ、かつ連担する。夏季の緑の連続も、冬季の白の連続も、まるで単一の敷地に家々が居間を開いて並ぶかのような風景となる。それは敷地境界をめぐる思想の具現化であり、子供たちが家々を楽しく行き来する信頼関係の風景でもあった。第2に窓の呼応関係。建築家たちは細かな設計コードを設定するかわりに、木部の塗料とスウェーデン製の木製窓だけを共有言語ととした。とくに窓は、大小様々だが正方形に近い比例と赤い塗装をゆるやかに共有しているため、家々の窓は本当に互いに呼び合うように感じられる。家々はコンクリートブロック造等いくつかの構造形式を組み合わせ建築家独自の表現も見せて多彩だが、高い断熱・気密性能に支えられた温かく大らかな空間を住み手は共通して享受しており、通りや庭とのつながりが魅力の1Fから階段を上がると、2Fでは屋根並みと窓の呼応があまりに魅力的なのだ。連帯の意識を育む空間的関係はじつに立体的なのである。
こうした設計の背景には、北海道での住宅供給の歴史的蓄積と、戦後の建築家たちの運動的な切磋琢磨があった。そして、彼らの設計は地域づくりを意欲的に担う住み手を呼び寄せ、彼らが開発会社や設計者とともに学校を含む地域社会を育ててきた。24戸の周囲でも建築家への設計依頼が続き、良好な環境形成につながった。完成から40年近くがたつ今日も、24戸はすべて綺麗に住まわれ、その佇まいは今なおみずみずしく建築家らの設計思想を伝え、かつコミュニティの力というべきものを教えてくれる。とりわけ印象的であったのは、住み手らが家を大事にしながら改修やDIYに勤しむ姿であった。
青井哲人