JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.336嵐山カントリークラブ クラブハウス
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竣工時 撮影:白石建設

現況 撮影:鳥村鋼一
原設計:天野太郎/天野太郎研究室
改修設計:株式会社メグロ建築研究所
嵐山カントリークラブ
白石建設株式会社
1961年
埼玉県比企郡
嵐山カントリークラブクラブハウスは建築家・天野太郎の設計によって1961年に竣工した建築で、65年の時を経て今なおクラブハウスとして使用されている。
天野太郎はフランク・ロイド・ライトに学び、水平性の強さと円形を多用した設計はライトの影響を残し、同時に北欧で目にしたアルヴァ・アアルトの建築への感動から、トップライトにその特徴を見ることができる。いずれにしても戦後モダンニズム建築の傑作のひとつといえよう。
しかし長い年月の中で、当初想定していなかった会員の急激な増加に対応するため増改築を行い、当初のデザインが大きく損なわれ、さらにその後ゴルフ人口の減少や来場者のニーズも変化し、新築も含めて新たな対応が迫られることになった。
当ゴルフクラブの選んだ道は、オリジナルのデザインに敬意を払い、既存建築を残し使い続けることである。そのためにメグロ建築研究所を改修設計者に選び、実測調査や事業者へのヒヤリング、利用者アンケートによる調査、耐震診断、設備の実態調査を行い、問題点を洗い出したうえで、自己資金で時間をかけてでも修復・維持保全・改修を目指すという目標を設定し、マスタープランの作成を進めた。マスタープランの手法は次の三つである。
(1) 竣工時のデザインが残っている個所は清掃しそのまま残す。
(2) 竣工時のデザインが撤去されている個所は現代の使用に適応できれば復元するが、そうでなければ復元しない。
(3) 増改築によって付加されたものは撤去するが、機能的に必要なものは現代的なデザインに置き換える。ただし撤去可能な施工とする。
この手法は、オリジナルデザインに対する敬意・ニーズに対する現実性・将来に対する柔軟性を持った、とても大切なガイドラインである。この様な価値観を掲げたことがこの建築を長く使い続けることへの成功を担保したといえる。
さらに、安全性・法的に必要な工事と経営・運営に必要な工事と美観・快適性に必要な工事の三つに分けて見積もりを取り、オフシーズンの工事に備えるという効果的で実現性の高い方法とっている。現在の姿は、露出されていた空調機を家具と一体化して隠ぺいし、見えないように耐震補強を行い、床のフローリングを復元し、談話室をメモリアルルームに変更するなど、5期に分けて工事を行い、様々な現代的なデザインでオリジナルの良さを引き立てている。これを事業者と設計者そして施工者が同じメンバーで進めていくという。優れた建築を同じ用途で生きた建築として、これから50年間使い続けるために、まだ道半ばとはいえ将来の姿が楽しみな進行形の建築と言えよう。
広谷純弘