JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.338アートプラザ
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竣工時 提供:大分大学名誉教授 佐藤誠治

現況
磯崎新/磯崎新アトリエ
大分県
後藤組
1966年6月 改装:1998年2月
大分県大分市
「大分県立大分図書館」(旧図書館)は、同県出身の建築家・磯崎新が30歳のときに設計を依頼され、1966年に竣工した彼の代表作のひとつであり、その設計過程で記した「プロセス・プランニング論」(1963年)は、建築における生きた時間を設計行為でいかに扱うかを理論化した建築設計論として多くの建築家に影響を与え、イデオローグとしての磯崎の存在を確立することとなった。30年後の1995年、「大分県立図書館(豊の国情報ライブラリー)」(新図書館)が竣工し、1998年に旧図書館は大分市の芸術文化複合施設「アートプラザ」となり、現在に至っている。
旧図書館が竣工して59年、アートプラザが誕生して27年が経つ。JIA25年賞という枠組みにおいては、アートプラザ以降を対象と考えるのが筋かもしれないが、現地でのヒアリングを経て私は、旧図書館の設計が依頼されたときから今日に至るまでの時間と、この建物をめぐる文化的状況全体がその対象とされるべきと考えた。
まず注目すべきは、旧図書館、新図書館の設計、そしてアートプラザの改修設計のいずれもが、磯崎に依頼されている点である。その背景には大分の文化を育み支えてきた文化人・財界人たちの存在があった。彼らはまず旧図書館の設計を、当時まだ東京大学大学院に在籍中だった磯崎を信頼して依頼する。旧図書館が収蔵図書数の増大によって手狭になり別敷地に新図書館構想が浮上すると、再び磯崎に設計が依頼される。旧図書館は、女性センターとして再活用が検討されたものの、建て直しを望む声もあり、解体・新築でほぼ方針が決まると、今度は県民から保存活用を求める声が上がる。解体か保存かで議論となるなか、市内に残る磯崎の建築をまちづくりのコンテンツと考えた大分市と県が交渉し、別財産との等価交換で市に譲渡された。人びとが望んで建物は残った。それを機に磯崎は模型など自らの資料の一部を大分市に寄贈し、それらは現在アートプラザに常設展示されている。
磯崎新を世界的な建築家に育て上げた大分の人たちは、文化人、財界人、政治家のみならず、多くの県民・市民が真摯に議論を重ね、最終的にこの建物を磯崎のメモリアルとして残す決断をした。したがって本賞はその一連の活動に貢献したすべての人たちに捧げられるべきである。今後は、より積極的に磯崎の資料を収集保存し、世界で唯一の磯崎建築のミュージアムとして世界中から注目される存在であり続けて欲しい。
橋本純