JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.292新潟市民芸術文化会館
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長谷川逸子・建築計画工房株式会社
新潟市
鹿島・福田・本間・加賀田・第一・丸運 共同企業体
1998年5月
新潟県新潟市
「新潟市民芸術文化会館/りゅうとぴあ」は、1993年の公開設計競技で長谷川逸子・建築設計工房が最優秀となり、5年の歳月を経て1998年に竣工した。信濃川沿いの白山公園の南側に位置する。近接して「新潟県民会館」、「新潟市音楽文化会館」が建ち、西側には「新潟市体育館」、「新潟市陸上競技場」が位置する。したがってこの建物は、都市公園内に形成された文化・スポーツ施設群の最後のピースとして構想されたわけである。
敷地周辺は地下水位が高く、駐車場を地下化できないため、公園であるにも関わらず、地面の多くを駐車場に充てていた。そこでこの建物の建設に際して長谷川は、公園内の駐車場上部6箇所に円形の屋根を掛けて空中庭園とし、それらの庭園群と周辺諸施設、文化会館を接続する通路を提案している。最後に建つ建物から触手が伸びて、全体を縫合するという都市計画的な視点を持って構想された優れた周辺整備計画である。
「新潟市民芸術文化会館/りゅうとぴあ」は、音楽ホール、劇場、能舞台といった機能を卵形の平面形のなかに配し、ガラスの外周壁で囲っている。メインフロアは空中庭園と接続する2階レベルに設け、外周壁とホール・劇場部分を離してロビー、ホワイエ、カフェなどとすることで視認性の高い共用部とし、明るくかつ外縁部の植栽とも連続した庭のような空間に仕立てている。
もぎりの設えやポスターの貼られ方などがよく考えられており、雑然とした印象を与えない。現在の使われ方に当初の設計思想が継承されていると感じた。設計者である長谷川は、1994年に市民ワークショップ(N-PAC)を立ち上げ、約3年間、市民と共に、公共のホールのあり方や使い方について勉強を重ねたと聞く。建物の設計と同時にそれを使う人も育てていたわけである。
建物をご案内いただいた石川尚朋さんは、開館から25年間、一貫してこの建物の運営管理に携わってこられた方である。その彼に、「りゅーとぴあ」の25年について問うたところ、「新しい世代が生まれた25年だった」との答えが返ってきた。
現在、音楽ホールの専任オルガニストは、ここでオルガン講座を受講し、パイプオルガンに魅せられ、プロのオルガニストとして着任した方だという。建物と活動が一体となって人を育てている。そして育った人が建物に再び関わっている。建築が人材の孵化器・揺籃器となっている。まさに25年の成果である。
橋本純