JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.295アクロス福岡
※ 写真・文章等の転載はご遠慮ください。
株式会社日本設計
株式会社竹中工務店
第一生命保険株式会社
三井不動産株式会社
竹中・鹿島・清水・九州・高松組・戸田共同企業体
1995年3月
福岡県福岡市
JIA25年賞の審査委員を今回から担当することになりました。竣工以来25年以上地域の人びとの活動を支え、大切に維持されてきた建物を顕彰し寿ぐこの賞は、現地の審査委員の選抜・推薦を受けたJIA25年建築選の中から、私たちの現地審査を経て決められます。どの作品も地域で大切にされているものなので、現地審査候補を選ぶこと、さらにその中から賞に推薦することにはたいへん気を使いました。
1995年竣工の「アクロス福岡」はひな壇状の形態と樹木で覆われた屋上がユニークで、誰でも入ることができ、隣接する天神中央公園と一体になって地域のランドマーク、憩いの場になっています。反対側は明治通りからセットバックし、エントランス部分を3層分くり抜くことで、街路空間にも豊かな余白をもたらし、そこから続く明るいアトリウムは動線の要として人びとを迎え入れます。民間の建物であるにもかかわらず内部にはシンフォニーホール、国際会議場、文化情報ラウンジと隣接する地域アンテナショップなど公共的な性格の施設があり、地下鉄駅につながる地下街と連続する利便性もあって、多くの人びとが活発に利用する場となっています。現地審査には施設管理者、設計者、施工者、造園担当者が同行され、チームの連携が今もしっかりと維持されていることに感心させられました。
屋上にある程度の高さの樹木を植え、育てながら最終的に「都市の真ん中に人工の山をつくる」という設計当初からの発想は、地球規模の気候変動に対する建物のあり方のひとつとして、今ではたいへんリアリティあるものですが、元来、樹木の特に根の部分は建物を傷つけ、また、暴風雨などにより枝や木の葉が飛散して周りの環境に悪影響を与えるなど、安易には実施できないものでした。建物とまとわりついた樹木は廃墟や遺跡の、自然に敗れた人類の象徴でもありました。
今から30年以上前の1991年のコンペで果敢にチャレンジ案をまとめ、実現するため大胆かつ細心の工夫を検討し、その後、永年の維持‣管理の経験から、自然と共存するための多くの知見を積み重ね、獲得した「アクロス福岡」の成功例は、今後に続く同様の試みに貴重な資料を提供しています。また、このようなコモンスペースの獲得・維持には、その場所の存続がみんなに望まれる魅力的なものであること、建物のオーナーはじめ関係する人々の継続的で積極的な協力がとても重要なことを実例を持って示しています。
高橋寛