JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.296オーベルジュ土佐山
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株式会社細木建築研究所
高知市土佐山村
大旺建設株式会社
1998年6月
高知県高知市
高知市の中心部から車で30分ほど離れた旧土佐山村の山間「中川」と呼ばれる集落に、オーベルジュ土佐山は25年前に誕生した。川の両側に展開された建築群は敷地の勾配を生かし、アプローチからロビー、客室棟に至るシークエンスは高低差を利用しつつ、落水や水盤やテラスといった外部空間が豊かな連続感を保っている。さらに川に掛かる吊り橋を渡れば、コテージタイプの宿泊棟が緑の小径を介して展開する構成を取り、周囲の風景を生かし、さらに建築が風景に個性を与えるように計画されている。
このランドスケープと連続感をもつ建築は、RCと木造の混構造で木組みにおいては伝統技術を生かしつつ新しい表現を試みており、土佐杉・土佐ヒノキ・土佐漆喰・土佐和紙といった地元の材料を用いた、いわゆる土佐派と呼ばれる建築の中でも優れた一例と呼べる。
この建築計画上の評価と共に大切なことは、完成までのプロセスである。
地域の過疎化と高齢化に対する危機感を持っていた地域の人々は、何とか地域を活気あふれるようにしたいと、在住の街づくりコンサルと共に自分たちで企画をまとめ、これを行政に提案した。建築家の細木茂氏も早い段階からボランティアでこれに参加している。結果行政もこれに答え、この建築が完成したという。つまり宿泊施設の事業計画ありきのプロセスとは全く異なっている点は社会的にも高く評価されるべきであろう。
さて完成から25年が経ち、樹木は育ち、ランドスケープも建築も共に魅力を増し、幸せな時間を過ごしたと言えよう。これは地元の材料以外に天然スレートの屋根や木と共に大谷石を用いた床といった時間と共に豊かな経年変化をする天然素材の選択、また極端な傷みを抑制する適正なディテールに負うところが多い。加えて、丁寧な日常的なメンテナンスが行われている。運営に関わっている民間企業との連携も非常によく、この建築を大切にする仲間という関係性を築いていることも一因だと思う。
土佐山村が高知市と合併した際にも、合併前からメンテナンス費用を村の予算で確保していたものを市の予算で維持できるように努力し、メンテナンス計画を保っている。
この様に、計画時からのソフトとハードの優れた点を維持し現在に至っていることは、建築が社会と共にあることの意義を伝え、25年賞にふさわしい作品だと思う。
広谷純弘