JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.301掛川市庁舎
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株式会社日建設計
掛川市
清水建設株式会社名古屋支店
1996年2月
静岡県掛川市
「掛川市庁舎」は1996年2月に竣工し、2024年で築28年になる。設計は日建設計で、竣工後に制作された書籍『NIKKEN SEKKEI LIBRARY 3』(1998年12月23日発行)には、当時日建設計の副会長であった林昌二が、 再び私が担当することになったと記している。『新建築』1996年7月号に掲載され、そのデータシートには「構想:林昌二」とある。したがってこの建物の設計には、林が深く関わっていたとみていいだろう。
当時林は、『二十二世紀を設計する』(彰国社刊、1994)を上梓し、20世紀末の時点で、21世紀ではなく、「二十二世紀の成熟社会に向けて持続可能なライフスタイルを設計する」と記している。同書の刊行時期と本建物の設計期間は重なるため、この建物で林は、22世紀まで持続可能な公共建築のあり方を示そうとしたといえる。
林は、1955年竣工の旧庁舎の設計者でもある。取り壊されてしまったが、写真で見る限り、天井の高い開放的な空間で、平面的には機能分離されているが、空間的な一体感を感じさせる建物である。その空間の遺伝子が、現在の庁舎の設計依頼に際して当時の榛村純一市長に、「真に市民のために開かれた市庁舎とはどのようにあるべきか考えて欲しい」と語らせたのではないかと私は思っている。
西側の丘陵に差し掛かるように配置された東西に長い平面で、中央部に巨大なアトリウムを持つ。東西両側はSRC造で、中央部は鉄骨造の2重格子とし、南北の開放性を高めている。アトリウムでは、西側の階段状に配された生涯学習テラスと名づけられた空間で、本を読んだり、打ち合わせをしたりしている人たちがいる。聞けば、職員も打合せに使うとのことで、多様な人びとが交わり合う場所となっている。
東側2階エレベーターシャフトの脇に盲腸のように延びた廊下がある。市章が掲げられており、ちょうどアトリウムの中心となる場所である。そこに市長からの要望で小さな演台が据えられた。市長はそこで年頭の挨拶を行い、職員はみな、生涯学習テラスに出てきてその演説を聞くのだという。つまりこのアトリウムとテラスは、アンフィシアター=古代ギリシアの円形劇場なのであった。直接民主主義の象徴である建築様式が2500年の時を経てここに転写されている。これを変えられるものならば変えてみろ、といわんばかりの強烈な主張がここにある。この建築がなくなるときは、日本の民主主義が危うくなるときかもしれない。林が問うてきた22世紀を設計することとは、国家の根幹に根差す建築様式であった。この先の未来にまで、使い継がれてもらわないといけない建築であると感じた。
橋本純