JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.308香北町立(現 香美市立)やなせたかし記念館 アンパンマンミュージアム&詩とメルヘン絵本館
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古谷誠章+八木佐千子/NASCA
アンパンマンミュージアム:香美町
詩とメルヘン絵本館:やなせたかし/やなせスタジオ
アンパンマンミュージアム:奥村組・大旺建設工事共同企業体
詩とメルヘン絵本館:奥村組四国支店
ミュージアム:1996年6月、絵本館:1998年7月
高知県香美市
アンパンマンミュージアム&詩とメルヘン絵本館は、高知県香北町出身のやなせたかし氏を記念する展示施設である。「アンパンマンミュージアム」は1996年6月に竣工、「詩とメルヘン絵本館」は、アンパンマン以外の作品と絵本を中心にしたイラストレーションの美術館・図書室であり、やなせ氏が発注者として建設し1998年7月町に寄贈された。
開館間もない27年前に私はここを訪れた。そこで見たのは、上に下に子供たちが楽しそうに走りまわり床を触る風景であった。丁寧な建築のディテールによるスケール感、手触り・足触りを含めて愛のある建築がそこにあった。今回の訪問では、久々に訪れる喜びと少しの不安があったが、丁度アンパンマン人形が屋上にふわりと現れて出迎えてくれた。
「アンパンマンミュージアム」は穏やかな風景に溶け込むモダンで清潔な建築である。機能を門型の部分に集約して中心部を抜けのある空間としたことで芝生の広場から奥の山まで見通すことができる。広場から印象的なブリッジを渡るとエントランスは3層吹き抜けの大階段が圧倒的な抜けのある「がらんどう」空間である。いたるところでアンパンマンと出会える場所であり、子供たちの声が27年前と同じくあちらこちらで聞こえてきた。
「詩とメルヘン絵本館」は木造2階建である。書架を思わせる展示壁に連続するスリットのある展示室は開閉できる窓を竹林の見える庭側に設けている。このスリットの窓から漏れる光は竣工当初は美しい立面を構成していたが、少し残念なのは隣地に大型倉庫が建てられて半分が隠れてしまったことは惜しまれる。
やなせ氏が漫画家、詩人、編集者、デザイナー、エンターテイナーとして多くの人々を幸せにしてきたことは枚挙にいとまない。その、やなせ氏が切望していたのは「大人も楽しめる現在進行形の美術館」であった。2013年にやなせ氏が逝去して「現在進行形」から「保存・収集」するミュージアムとなったが、建築家が発注者に伴走する関係は現在まで続いている。授乳室の増設をはじめ設備の大規模改修など間段なく委託されており、その記録も丁寧に保管されている。様々な場面で行われてきた市民参加のワークショップも建築に対する町民の意識を育むことに寄与されてきた。どちらの館も素材は経年変化の中で味わいの出てくるものが選択されている。地元土佐派の建築家との交流も続いており建築作品のチカラも加わり香美市(旧香北町)の核となっている。
村上晶子