JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.214IDIC岩手暖房インフォメーションセンター
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彦根アンドレア
ピーエス株式会社
鹿島建設株式会社
1992年
岩手県八幡平市
25万平方メートルという広い敷地。そのほとんどは自然のままの森である。その中で、わずかに切り開かれたところに、この空調機器メーカーの工場兼オフィスはあった。立地は東北自動車道の松尾八幡平インターテェンジを下りてすぐのところ。村はここを工業団地として開発し、多数の工場を誘致する構想だった。しかしこの環境に惚れ込んだ建築主は、エリアを丸ごと購入して、その中に自然と共生しながら働く、新しいライフスタイルの場をつくりたいと考える。熱意を込めた交渉により提案は受け入れられ、この深い森に囲まれた建築は実現したものだという。その先見的なヴィジョンの素晴らしさに、まずは深く感心させられる。
建物は南面がすべてガラスで覆われた横に長い立面を見せる。形はシンプルだが、サッシの群青色と両脇に延びる庇の黄色が目に鮮やかで、そのあたりはかつて流行ったハイテック建築のおもむきだ。
中に入ると、総ガラス貼りの南側に、東端から西端まで吹き抜けが連続しており、外観からは想像できないほどの見通しが得られる。その途中には、ところどころに鉢植えの植物が置かれ、さらに4つのプラントベッドでは天井近くまで伸びた木々が育っている。奥のデスクスペースからは、内外の植物がガラスを挟んで連続するものとして感じとれる。まさに森の中で働いているような印象である。
冬季は南側の半屋外空間で日射によるヒートゲインを得る。一方、夏季は外側に植えられた広葉樹が日射を遮ってくれるので、暑くなることはない。もちろん建築主である空調機器メーカーの製品も巧みに使っている。また、断熱サッシや型枠兼用の外断熱パネルなど、建設当時は普及していなかった先進的な省エネ建材も多数採用している。しかしそうした設備や建材に頼るというよりも、自然エネルギーを最大限に活かしたパッシブデザインの手法に原理的に取り組んだと言える。それが25年を過ぎた現在でも、みずみずしい魅力が失われていない理由だろう。それどころか、周囲の環境と馴染んで、ますます魅力を増しているようにも感じられる。
設計者はドイツで生まれて育ち、大学卒業後に日本へとやってきた。これが初めて設計した建物だったという。若い建築家に大事な建物の設計を任せて育てた建築主の英断も高く評価したい。
(磯 達雄)