JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.218小国町民体育館「小国ドーム」
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葉デザイン事務所
小国町
株式会社橋本建設
1988年
熊本県阿蘇郡
小国町民体育館は、1988年に竣工しているから、今回の25年賞応募の時点で、ちょうど30周年の節目を迎えていたことになる。竣工当時、『新建築』1988年8月号の表紙を飾り、巻頭12ページで大きく紹介され、注目を集めた建物だった。私事ながら、評者も、その誌面の印象を記憶しており、地元産の杉の間伐材を用いて開発された先駆的な木造立体トラスで覆われたドームの下に広がる優しい光に包まれた大らかな空間の透明感と、ガラスの外に見える森の緑のキラキラとした輝きに魅せられた一人であり、5年後の1993年に現地を訪れた建物でもあった。そのため、それからちょうど25年、四半世紀を経て、建物はどのようになっているのか、期待と一抹の不安を抱いて、今回の審査に臨んだ。
町の中心部から車でアプローチすると、杉木立の深い緑に抱かれたステンレス鋼板で葺かれた銀色に光り輝く丸い屋根が見えてくる。大地に臥せったようなその閉じたドーム状の屋根の形と、正面のガラスの開口部が60度手前に傾いているからなのだろう。内部の様子は近くまで寄っても外部からはうかがえない。エッジの効いた厚さ12㎜の強化ガラスで構成されたフレームのないエントランス・ブースと、軒裏から軒先まで透明ガラスで覆われた全面ガラスの正面の開口部は、その極限まで洗練されたディテールによって、上部の木造立体トラスの屋根の存在を高める触媒のような役割を見事に果たしている。そして、中へ足を踏み入れると、息を呑むような神々しいとでも呼べるアリーナが広がっている。約6000本の間伐材をスチール製のジョイント金具で組み上げた木造立体トラスのドーム状の天井が、光り輝いて優しく包み込んでくれるような雰囲気を作り上げている。残念ながら、審査当日は休館日で使われていなかったが、そこに漂う空気と、丁寧にメンテナンスされた様子からも、市民たちに愛され、親しまれている光景が自然と思い浮かぶ余韻を感じ取ることができた。換気だけのシンプルな設備と、余分な要素を削ぎ落とした単純明快な構成要素から組み立てられたその方法が、そうした健全な姿を生み出す原動力になっているに違いない。この体育館の竣工と時を同じくして、熊本県では、「くまもとアートポリス」という新しい公共事業が始まった。同じ時を経たこの体育館は、そうした公共事業の目標となる力を今も持ち続けている、そう思えた。
(松隈 洋)