JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.284本の森 厚岸情報館
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圓山彬雄/株式会社アーブ建築研究所
厚岸町
葵・影本特定共同企業体
1996年3月
北海道厚岸郡
釧路から車を東に走らせること50分、道東の雄大な海が目の前に広がる。まちを見下ろす小高い丘には同計者による道の駅コンキリエがあり、その眼下にはJR釧路線厚岸駅と“本の森厚岸情報館”が並んで見える。牡蠣を模したコンキリエと、くじらのような “本の森”が静かな町に彩りをそえている。
“本の森”は、こども、家族、町民交流の場 生涯学習の中核施設、厚岸の待合室である。北から吹き降ろす冷たい風と鉄道の騒音を壁で防御し、南は厚岸湾に開いている。大屋根をもつ2層の建築だが、高窓の懐に上階を包むヒューマンスケールなくじらの心象風景を創っている。内部空間にふりそそぐ陽光が心地よい。天井までくじらがうねるようだ。スケール感のよい吹き抜け空間は、様々なアルコーブを使って書斎のように楽しく立ち読みできる書店のようである。そら豆のような大きめのテーブルは建築と一体化されている。隅々までデザインされた椅子など豊かな丁寧さがちりばめられている。本をもったまま出られるテラスも居心地よい。入口近くに情報プラザがあり、通学途中の学生もバスや電車を待つ間の居場所になる。
寒冷で海際、夏でも霧で寒いほどなので建物を冷やさないように、当時は先駆的技術であった外断熱工法で建物全体を厚い断熱材で覆いつくした。床暖房と併設することで温熱環境を安定させている。また、冬の陽射しを積極的に取り込むように南面に大きな開口部がとられている。
その外断熱工法として1階外壁は石積岸壁を模したPC版コンポジットパネル、2階は亜鉛合金版の菱葺きを鯨の意匠に見立てている。外皮の亜鉛合金は、味わい深い表情を時間の中で獲得され建築が美しく保たれている。コロナ禍の時期を上手く利用して、屋上防水他改修・冷暖房設備他改修工事を等も行った。継続的な保全、改修記録が残っており、意志のある運営管理、建築家の継続的関わりがみられる。外部周りの改修は木製デッキなどの限定された範囲だが、経年変化の美しい外皮とともに輝きを取り戻している。また、設計者は外断熱工法が有効に機能していることを改修後の温熱環境測定を実施し、客観的な根拠を示している。
町のひとたちの囲炉裏端のような、発信基地として建築が人々を見守り、開館の翌年から走らせている図書館バスは一日60キロを走らせている。小さな公共空間だが地域の文化拠点として25年を経た建築が人々の記憶の中に根付いていることが感じ取れた。
村上晶子