JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.285金沢市民芸術村
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水野一郎+金沢計画研究所
金沢市
松本工務店・斉藤建設JV
+本田工務店+稲元工務店
1996年8月
石川県金沢市
芝生がのびのびと広がる市民広場の南東の端に、年季の入った赤煉瓦造りの建物が並んでいる。それらのかつての工場の施設の中に入ると、木造の架構に迫力に圧倒される。記憶の染み込んだ外壁と豪快な構造をそのまま生かした空間は、この場所で創作活動を行う人たちに活力をもたらしている。
「金沢市民芸術村」は、旧紡績会社の建物を改修し、市民の文化・芸術の場として再生したものである。もとの倉庫群は、文化財級の本格的な産業遺産建築とは評価されないが、実用に徹し工夫凝らした構造物には、確固とした存在感が認められ、往事の紡績産業の息吹を感じさせる。赤煉瓦の持つ親しみやすい外観も、長く人々の記憶に刻まれてきた。一時は解体の方針が下されたものの、再生・活用を決断した当時の関係者の英断によって、現在の形が実現したという経緯がある。
今日、建物の保存、リノベーション、木造建築への関心が高まっている。「金沢市民芸術村」は、30年前にしてそれらの意義に気づいていた、先駆的事例としての価値も高い。
大正から昭和初期に建造された6棟の元倉庫は、それぞれ形状も異なれば、構造形式も異なる。構造はどれも木造であり、屋根と2階床を支えている。外壁は内部の架構から独立し、3棟が煉瓦造、3棟がコンクリート造であった。改修にあたり、それぞれにプログラムをあてはめ、個別に適切な耐震補強をし、空調等の必要な設備を足している。鉄骨造による構造補強は、棟ごとに柔軟な、ときに大胆な手当てがなされている。改修にあたっての設計者の当意即妙な対応が、多くの箇所で確認される。がらんどうの空間に太い径の木が縦横に走るさまは、なるべくいじらずにそのまま生かす方針がとられている。倉庫から、練習場、展示施設へと機能が変更になり、新しいプログラムの常識的な機能性からすれば、邪魔とされうる木架構は、それらの空間の魅力的なキャラクターとなっている。一見使いにくそうな、そして設備も十分ではない空間を、利用者たちは好んで使い、製作の糧としている。
実際、利用者の自主管理に委ねられているこの公共の施設は、開館以来、一年を通じて、そして昼夜を問わず、高い稼働率を誇っている。いつ訪ねても良い場所を、自分たちで大切に使い続けるという、公共建築の理想ともいえる状況が実現されてる。周到な環境整備と市民の高い意識との、幸福な融合の事例となっている。
今村創平