JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.286高知県立中芸高校格技場
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山本長水建築設計事務所
高知県
株式会社岡内産業
1995年8月
高知県安芸郡
本賞の2022年度の審査員を拝命した。本賞は竣工から25年以上を経た建物を表彰するものだが、審査員を務めるにあたり、当初はなぜ25年なのかが腑に落ちなかった。人間ならば25歳はまだ青年だし、建物の長寿を寿ぐには早すぎると感じていたからである。ただ、審査を経て、25年とは、単なるは四半世紀ではなく、依頼主、設計者、施工者、施設運営者などの諸氏に、その建物の誕生から現在に至るまでのすべてを直接話を聞くことができる時間単位であることがわかった。それは当該建物と関係者たちが紡いできた物語であり、人生でもある。軽々しく評価すべき類いのものではない。審査は深い敬意を払いつつなされるべきものと心得た。
「高知県立中芸高校格技場」は、高知市中心部から東に約45kmほどのところに位置する高校の、剣道と柔道のための武道場で、15m×28mの無柱空間を県産材のヒノキを使った独特なアーチ状の梁で支えた建物である。1995年8月の竣工で、1999年には日本建築学会賞を受賞している。
竣工時からその梁は注目されていた。90mm角のヒノキ材(仕上寸法で85mm角)を、自然に湾曲し得る曲率で曲げ、3段に重ねてボルトで緊結し、成255mmの1本の梁としたもので、3本の材の間にズレが生じないように車知栓を用いて止めるという特徴的なディテールを持つからだ。外壁芯から2m内側に桁を設けて11mスパンとし、外周部の鉄筋コンクリートの柱から伸びた方杖がその桁を支えている。内部仕上げは土佐漆喰とヒノキの縁甲板で、外壁はスギ下見板張りのパネルである。
竣工後25年を過ぎた現在も、内部は竣工時と変わりがなく、外壁は設計者の想定通りに木材のエイジング進んでいる。つまりこの建物では、設計時に設計者が、用いた材料の性質、施工法、耐久性、時間変化、修繕方法に至るすべてを把握していたことが実証されていた。翻って一般的な現代建築は多種多様な部品の集合体であり、その部品が量産品である場合は当該建物に最適化されることはない。それは部品のアセンブリーとしての現代建築の限界である。それに対して木材には、素材としてすでに膨大な知的蓄積があり、時間経過に対して設計と施工がその知を共有できれば最適解を導くことが可能である。設計者は、その木材の利点を最大限利用した。
聞けば、監理は設計者ではなく高知県の職員が行ったという。にもかかわらずこの建物は設計思想と違わず竣工し、今日まで変わらぬ姿を保持している。そのことが、設計思想がすべての関係者で共有可能な知であったことの証明である。その知的な設計姿勢を賞賛したい。25年賞にふさわしい建築である。
橋本純