JIAの建築賞
JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.219平取町立二風谷アイヌ文化博物館
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設計者:
株式会社 アトリエブンク
建築主:
北海道沙流郡平取町
施工者:
大成建設札幌支店・八田建設工業共同企業体
竣工年:
1991年11月
所在地:
北海道沙流郡
講 評
平取町の二風谷は、日高山脈から太平洋へと注ぐ沙流川のほとりに位置する。古くからアイヌの人々が住み、船の進水式を執り行う神聖な場所であった。この地に建てられたこの施設は、アイヌ民族の伝統的な文化を伝え、展示するための博物館である。 周囲にはアイヌ民族学者の萱野茂氏が復元したチセが散在している。チセとは木造茅葺の伝統的なアイヌの住居のこと。その間を抜けていくと、反り返った長い屋根が見えてくる。ダイナミックな形象は、北海道の雄大な自然を背景にしていかにもふさわしい。近づいて眺めれば屋根や壁は細切れにされ、様々な角度でぶつかり合う。コンクリート打放し、コンクリートブロック、金属板、ガラスなど、いろいろな材料が複雑に絡む様子は、見方によってはデコンストラクティビズム(脱構築主義)からの影響も漂わせている。 玄関を入ると、伝承サロンと名付けられた空間に出る。ここは企画展や見学者へのガイダンスを行うスペースで、ステージでは民族舞踊の上演も行われるという。見上げると特徴的な屋根の形が内部にも現れており、カーブして伸び上がる天井が、強烈な上昇感をみなぎらせている。北面の大きなハイサイドライトの前に、遮光のスクリーンが下ろされてしまっていたのは残念ではあったが、空間のダイナミズムは十分に伝わってくる。天井の反対側は低くなりながら展示室へとそのまま延びる。鉄骨のトラスは細いアングル材で組まれたもので、繊細であると同時に力強い。 雑誌掲載記事の文章で設計の担当者は、この建築の設計ではチセからの直接的な形態の引用は避け、根底にある精神を空間として表現したと明かしている。それはしっかりと果たされたが、一方で天井に現れた迫力ある骨組みはチセの内部を想起させるものであり、伝承サロンのハイサイドライトはチセに神の出入り口として設けられるカムイプヤㇻをなぞらえたものにも見える。そうした多元的な解釈が可能な点もこの建築の面白さだろう。 オープンして27年が経ったが、建物は裏側に収蔵庫を増築した以外に改変されているところはなく、竣工当時の状態をよく保つ。施設としての活動も、企画展を定期的に行うなど、しっかりと継続している。アイヌ文化を扱った展示施設はこの後も道内で増えたが、アイヌの精神を建築で表現する志において、いまもなお出色のものとなっている。JIA25年賞に値すると認めるものである。 (磯 達雄) |