JIAの建築賞
JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.221浦添市立図書館
※ 写真・文章等の転載はご遠慮ください。
設計者:
内井昭蔵建築設計事務所・東設計工房設計共同企業体
建築主:
浦添市
施工者:
大晋建設株式会社
竣工年:
1985年3月
所在地:
沖縄県浦添市
講 評
現地審査に行かなければ建築の本当の姿はわからない。そう思えたのも、時を重ねたこの図書館が地元に根づいていると実感できたからである。設計者の内井昭蔵(1933~2002年)は、この図書館に携わる直前の1980年に、「健康な建築をめざして」(『新建築』1980年9月号)と題する論考の中で、次のような問いかけの言葉を記していた。 「建築をつくっている要素はことごとく変りつつある。建築の敷地ばなれ、施主ばなれ、技能ばなれは考えてみれば、建築の地域性や個人性の喪失にほかならない。として見るならば、建築が土地から、個人から、職人から離れてしまったところに健康を失う問題が潜んでいるように思えるのである。(中略)健康な建築をとりもどすには、建築家の力が必要である。ふたたび建築をつくる人びと、使う人びとを結集し建築の根源的な意味をともに考えねばならない。建築家の職能は建築の社会性、つまり、機能以外の必要な空間があることを示すことである。」 内井は、敷地が地域や風土との関係性を喪失し、施主が建築の利用者ではなくなり、建築生産の増大によって建築が均質化し、職人の個人の技が失われてしまったと指摘する。そして、建築の立ち戻るべき原点を、「健康」という言葉に託して提示しようとしたのだ。こうした建築の現状に対する批判的な視点を持っていたからこそ、1982年に浦添市の建築士会に招かれた講演をきっかけに、この図書館に取り組むことになった時、内井は、自らが提唱した「健康な建築」、すなわち、地域や風土との関係性を育みつつ、市民に親しまれる雰囲気を持ち、厳しいコストの下でも職人的な仕事を随所に盛り込んだ図書館をつくるべく、精力を注いだに違いない。それは、実施設計を地元沖縄の事務所と協同で行うために現地に分室を設けて所員を派遣し、自らも頻繁に通い詰めるなど、実践を伴うものだった。そして、協同設計者の東設計工房(山城東雄代表)が、竣工後、朽ちかけた木製パーゴラの取替えを提案して実現させるなど維持管理のアドバイスを行い、児童閲覧室のお話コーナー増築(2011年)の設計にも携わっている。このことも現在の健全な状態を維持する大きな力となったことは明らかだ。 そして、この図書館が地元に根づくことができたのは、先の文章で、内井が、建築家の使命として、「建築の社会性、つまり、機能以外の必要な空間があることを示す」ことと記した点に最大の根拠があるのだと思う。本に囲まれた「書斎の延長としての図書室」、「長くとどまりたくなるような場」を目指した閲覧室は、ここへ通う子供たちに凛とした図書館の姿を印象づけたに違いない。手づくりの瓦を積み上げた屋根の温かみも含め、これからも市民のよりどころとして在り続けることだろう。 (松隈 洋) |