JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.228東京藝術大学国際藝術リソースセンター 既存図書館棟
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既存:東京芸術大学建築科 天野太郎・茂木計一郎・平島二郎
改修:山本・堀アーキテクツ・袴田喜夫・橋本久道・松本年史・吉松秀樹
国立大学法人 東京芸術大学
既存:鴻ノ池組
改修:冨士工・東洋機動・成瀬電気工事
1965年(改修:2018年8月)
東京都台東区
建物は大学付属図書館・芸術資料館として、当時、東京藝術大学の教授であった天野太郎の設計により1965年に竣工。中にいても随所で上野の杜とのつながりが感じられる空間の構成で、特に2階の閲覧室は格子状の梁によって柱のない大空間を実現。高いせいの梁を中庭に向けて架けることで、庭の緑を最大限に享受できる大きな窓を取ることに成功している。内外で見られる杉板型枠によるコンクリート打放しの仕上げも魅力的だ。
竣工から半世紀近くがたって、狭隘化や機能面での遅れへの対応が必要となる。再整備が検討され、図書館は文化財保存研究室、ラーニングコモンズ、ギャラリーショップなどの機能を併せた、国際藝術リソースセンターとして生まれ変わったが、図書館の主要部は改修を施され、引き続き施設の中核を担うことになった。
改修にあたって採られたのは、文化財としてそのまま残すことを目指すのではなく、重要な点はどこかを判断し、残すべきところを残しながら、変えるべきところを変えるという方針である。これを改修設計者たちは「復原的改修」と呼ぶ。その意図がはっきりと伝わるのが2階部で、執務スペースを広げながらも、閲覧室の無柱空間をそのまま残すことに意を注いだ。耐震補強や設備の増強は行われているが、増やした壁を書架で隠すなどの工夫により、その跡はわからない。躯体をそのまま現したモダニズムの空間の明快さが、損なわれることなく受け継がれている。また1階部では、以前の改修で設けられていた壁を撤去し、エントランスからアートプラザへの空間の抜けを復活させた。これにより、低い庇の玄関から入り階段のある吹抜けを経て自然光の差し込むギャラリーへという、天野太郎が意図したシークエンスも再び体験できることになった。
施設には旧東京美術学校本館玄関(設計:鳥海他郎、1914年竣工)、陳列館(設計:岡田信一郎、1929年竣工)、正木記念館(設計:金沢庸治、1935年竣工)が隣接する。大正から昭和初期にかけての建築遺産が集まるエリアに、昭和の高度経済成長期に建てられたこの建物がしっかりと根付くことによって、レガシーの質をさらに高めることに成功している。また、図書館棟は美術学部の正門前に位置し、大学の顔となる建物でもある。モダニズムの既存建築にその役割を担わせることになった大学関係者の英断にも敬意を評したい。
(磯 達雄)