JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.234奈義町現代美術館
※ 写真・文章等の転載はご遠慮ください。
磯崎新アトリエ
奈義町
大成建設株式会社中国支店
1994年4月
岡山県勝田郡
奈義町現代美術館は、プリツカー賞受賞者であり、長きにわたり世界の建築界を牽引してきた磯崎新の設計ということだけでも充分に価値が高い。多くの傑作をものにしてきた巨匠の作品群の中では、小品といえるだろう。だが、御神体である那岐山(なぎさん)に対する主軸や「日」「月」「地」をメタファとする展示施設など、構想は壮大である。アーティストにその場のための特別な作品を依頼するという発想も、その後「直島 地中美術館」(設計安藤忠雄、2004年)や「豊島美術館」(設計西沢立衛、2010年)などにみられる同様の試み(サイトスペシフィック・アート)の先駆けであり、それゆえ現代美術館の歴史の中でも重要な位置を占める建築である。
主要な展示は、「日」「月」「地」の展示空間それぞれに、荒川修作+マドリン・ギンズ、岡崎和郎、宮脇愛子が製作した空間体験型の作品3点のみであるが、竣工後25年を経た今でも多くの来場者を集め続けている。それは、それぞれの作品が他では体験できない独自の魅力を持っており、昨今のインスタ映えにもうまく適っているためである。作品の状態は良好であり、宮脇の作品はさらに良くなっているように思える。こうしたパーマネント・コレクションとは別に、この美術館では年間を通して、10を超える企画展を行っており、それが美術館の存在を生き生きとしたものとし続けている。企画展では、地元のアーティストの紹介を積極的に行っており、地域とともに共存していることがうかがえる。館長とスタッフの熱意にはひとかたならぬものがあり、奈義町の継続的なサポートが館の活動を支えている。
奈義町現代美術館は、円柱、三日月形、正方形平面の直方体といった、シンプルなオブジェが、ばらばらにまかれたような構成をもつ。こうした彫刻のような明快な造形は、建築の構法の標準からすれば、いくぶん無理をしているところがある。実際四半世紀の間に、何度かメンテナンスが行われてきた。関係者のこの施設を最高の状態のまま維持するという熱意が重ねられ、実際、あら捜しをするような見方をしなければ、開館時と同じ姿を誇っている。
一昨年、磯崎新の米寿と祝う会が氏設計の「ハラ・ミュージアム・アーク」で行われた際、冒頭のスピーチの中で批評家の浅田彰は、「2年後の卒寿の祝いでは奈義で中秋の名月を観るのもいいのではないかと思います」と述べた。今から半年後、それが叶えば、素晴らしいと思う。
(今村 創平)