JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.247金山町火葬場
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益子義弘/益子アトリエ
山形県金山町
沼田建設
1995年12月
山形県最上郡
金山町は山形県北部に位置する人口5000人弱の町である。周囲を山に囲まれ、冬季には積雪も多い。江戸時代から進められた植林は、全国有数の美林を形成しており、ここで採れる金山杉が名産品となっている。町では建築家の林寛治氏や片山和俊氏らが中心となって公共施設の設計を手がけ、また景観条例を定めて金山住宅と呼ばれる地域らしさをふんだんに取り入れた住宅の建設も推進してきた。そうしたまちづくりの成果が見られる町の中心部からは少し離れた、町の周縁部にこの火葬場は位置する。
敷地は蛇行する川に向かって突き出た、半島状の小さな丘の上である。杉の木立ちに囲まれて、建物は立っている。車寄せに面したポーチから、中へと入る。真っ直ぐに延びた廊下を進んでいくと、途中の小窓にひとつずつ添えられた小さな彫刻が目に留まる。そのまま歩いていくと、いきなり空間が広がり、そこが告別室になっている。単純な構成だが、だからこそ劇的ともいえる空間体験を生み出している。
告別室の南側は床から天井まで、全面がガラスである。そこを通して、森の風景が視界いっぱいに広がる。木々を透かして差し込んでくる光は清冽で美しい。冬の雪景色も、さぞや素晴らしいことだろう。杉材の丸柱は外の木立と呼応し、森との一体感も生み出している。金山町で暮らす人が親しい人と最後の別れを果たす際に、忘れえぬ思い出を加えてくれるはずだ。
森はこの施設に大きな恩恵をもたらした。同時にこの施設は、森の意義を高める役割も果たしている。この葬祭場がなければ、この森は単に通り過ぎるだけの場所だったにちがいない。施設が存在することによって、この森は町の人々にとって象徴的な場所へと転じたのである。
建物ができて25年以上が過ぎた。竣工当時の写真と見比べると、まわりの木々は随分と立派に育ち、外装の木材は黒くなっている。これがまた、森の景観によりなじむ効果を生んでいる。それ以外の点で、建物はほとんど変わっていない。竣工したばかりと言われても信じてしまいそうなほどだ。ささやかだけれどもかけがえのない場所が、建築の設計によってでき上がり、町の中で定着している。そのことに感動を覚えた。
(磯 達雄)