JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.250海の博物館(現・鳥羽市立海の博物館)
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内藤廣/内藤廣建築設計事務所
財団法人東海水産科学協会
収蔵庫:鹿島建設・大種建設(木工事) 展示棟:大種建設
収蔵庫:1989年6月 展示棟:1992年6月
三重県鳥羽市
内藤廣は、「海の博物館」の設計にあたり、時間に耐える建築とすることを第一義としていた。それゆえこの建物群は、JIA25年賞の趣旨にとてもかなっていると同時に、本賞の意義に対する批評性を持つ。たかだか25年で評価されるような建築を私は目指してはいない、という、建築家の声が迫ってくる。同時に進められていた周辺の開発が頓挫し、今となっては海の博物館だけが残っている様子は、却ってこの建物群の時間を超えた佇まいを補強している。
竣工時には話題となった。社会的にはバブル、建築界ではポストモダンのそれぞれ末期にあり、軽薄や混乱の潮流に異議を唱える建物とみなされた。当時の状況を苦々しく見ていた人たちからは、あたかも救世主が登場したかのごとく歓迎された。今日においては、そうした往事の事情とは無縁に、泰然と座っている。鳥羽の海が、時間を超えていつでもそこに広がっているように、「海」の博物館もまた、海のような存在であろうとしている。
人と海の生活にまつわる3万点もの収集物の、収蔵と展示のための施設であり、限られた予算で必要とされる性能を確保している。重要有形民俗文化財約7000点を含む収蔵品には、3つの異なる温熱環境が収蔵庫に求められ、それらは今でも適正に機能している。プレキャストコンクリートと集成材を用いた架構は、この建物の性格を端的に視覚化している。ともに当時は新鮮な構法と評価され、特に木造の大空間は1990年代においては実験的であり、今日盛んに試みられている木質建築に先鞭をつけた。
四半世紀前の話に戻ると、ポストモダンにおいては、建築の意味が重視され、表層的な形の戯れが喜ばれた。対して、海の博物館は構法を重視している。構法とは物の作られ方である。
今日、新しいエコロジー(生態系)の構築が目指される中で、様々な事物の連環の把握が求められている。そこでは人とモノ(ここでは建築)の関係が問われているわけだが、建築においてはその構法が事物の組成の視覚化を担う。私たちは、身の周りあるものの成り立ちへの関心を高めており、それがわかるような状態に整え、適切な連環とすべく努めている。
初代館長石原義剛が、情熱を注ぎこみ収集した海の民俗資料の膨大なコレクションは、私たちとモノと自然が織りなす生態系の貴重な証言である。それらは相応しい覆い屋を得て、今後も大切に守り続けられるであろう。
(今村 創平)