JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.258中原中也記念館
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宮崎浩/プランツアソシエイツ
山口市
鴻城土建工業
1993年12月
山口県山口市
中原中也生誕の地に、1992年、極めて資格制限の少ない公開設計競技で選定された原案によって実現した記念館である。審査委員長は鬼頭梓、選ばれたのは建築家宮崎浩の提案であった。宮崎は「中原中也に由来する場が多く残るこの地で、建築が無理なく溶け込んでいくことを強く意識しながらも、その表現が周辺環境に対していかに強くかかわっていくかを 大きなテーマとした。」と当時の心境を語っている。
発注者(山口市)、設計者、管理者(山口市文化振興財団)との連携は当時からうまくいっており、本館完成以降の工事履歴においても公共工事という性格上、複数の施工者が関わっているが、三者が常に共同したことで、竣工時の理念を継承しつつ、時代の流れに対応した施設とその後の展開が実現した。
近年の設計競技が大きな問題を抱えているとの現実認識に立つと、この記念館の企画から今日に至る経緯には、参考にすべき点が多い様に思う。この小さな設計競技で、自らの道を切り開いた若き建築家の真摯な努力と共に、それを、たった2枚の設計図書から選び出した審査委員長鬼頭梓の見識も高く評価されるべきだろう。小さな地方自治体の設計競技は、将来を担う若手建築家の登竜門であると同時に、その後長く地域に貢献すべき小規模公共施設でもあるからだ。中原中也生誕の地に建設されたこの記念館は、中原中也に由来する場が多く残るこの地で、今もその役割を担い続けている。敷地の約半分には建築が建てられないという当時の条件の為、敷地奥深くに配置した記念館と前面道路までの間に生まれた外部空間は、その後、一部が県道側に解放されたことによって、敷地内の通り抜けが可能になり一層町並みとの結びつきが増しており、本館完成以降の工事履歴においても、小規模な研究施設の増築も同じ設計者によって実現され、施設の統一感が維持されている。勿論、公共工事という性格上、複数の施工者が関わっているが、三者が常に共同したことで、竣工時の理念を継承しつつ、時代の流れに対応した施設づくりが堅持されている。1998年10月には、公共建築百選にも選定された。本館竣工後約20年を機に行われた耐久度調査を設計者が行ったことも、その後のスムーズな維持管理工事へとつながり、現在に至っている様子である。
(内田 祥士)