JIA 25年賞・JIA 25年建築選
JIA25年賞 受賞作品
登録No.269サンアクアTOTO本社工場
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白川直行アトリエ
サンアクアTOTO
山九建設本部 九州支店(当時)
1994年4月
福岡県北九州市
ハートビル法が施行された1994年に竣工し、重度障害者の職場確保と障害者の雇用を促進するという、当時としては啓発的な役割を担って計画された工場である。正面ファサードを構成する青い長大な壁面は、正面玄関・事務室・食堂・工場を繋ぐ廊下の側壁で、平家にはそぐわないその高さは、避難時間を稼ぐための蓄煙空間として計画されている。設計者は「技術も思想も未熟な時代にあって多様な利用者への対応を暗中模索した」と率直に振り返えるが、客観的な見解として、誠実で真摯な取組の賜物との印象が強い。設計者の献身的で控えめな設計姿勢が、安普請の典型の様に考えられがちな鉄骨ALC造の工場を、実に良質な建築に仕上げ、それが適切な修繕意欲の源となり現在に至っていると推察されるからだ。
トイレの主要機器は上下左右共に可変性を確保して設計され、現在でも調整可能な状態にあり、食堂の手洗器は、好みの高さのものを選べる構成になっている。
現在も現役の工場として生産を担う作業室は、当初から概ね変わっていないとの事であったが、設計時に簡明で無理のない空間構成を見出せるか否かが如何に、その後に大きな影響を及ぼすかを改めて確認させられる。
ファサードを構成する青い長大な壁も、鉄骨の軸組にALCの大型パネルを取り付けた極めて簡潔な構成であるが、現地審査の印象は、こうした単純な構成を丁寧なディテールで納めたことが、逆に目視点検や修繕の可能性を高め、結果として各ビルディングエレメントが、十分な耐久性を発揮し、良質な状態を長く維持する契機となっているとの印象であった。
関係者の説明を総合すると、鉄骨ALC造故の主要な修繕のテーマは、多くの場合、防水と塗装との印象だが、こうした日常的で、しかし、本質的な修繕業務を如何に簡便に且つ確実に実施できる様に予め設計するかが建物の命運を分ける様に思う。
特に、生産施設に於いては、主要なビルディングエレメントの状態を目視で確認でき、且つ、そこに直ちに営繕の手が届く事が如何に重要であるかを改めて確認する機会となった。
(内田 祥士)