JIA 公益社団法人日本建築家協会

JIAの建築賞

JIA 25年賞・JIA 25年建築選

総評

2021年度 総評

 25年賞ではなく50年賞を、または25年賞に加えて50年賞を作ってはどうかという意見がある。戦後日本の建築が概ね戸建て住宅で約30年、非住宅のビルもので約50年で除却されるといわれる統計的現実を前にして、長寿建築の顕彰の意味と名称の効果を再考すべき時期に来ているのかもしれない
 長寿の実績を顕彰するのなら、25年では短いに違いない。しかし過去の審査の過程で私たちが理解できたのは、その建築の築後25年の様子をつぶさに観察することによって、その後の状況を予想しうるということである。25年は残る建築と残れない建築の分岐点のようにも思える。
 補修改修を含む建物の状態、ユーザーや運営管理にあたる人々の意思、建築家や施工者の関りなどの情報を総合することによって、その建築の将来がかなりよく見えてくる。レトリカルに言えば25年を見れば50年が想像できる、ということである。
 今回の25年賞の受賞作はいずれも、社会状況の変化の中でも十分な利用が行われていて、運営管理も行き届き、コミュニティにおける存在意義が十分に維持されていて、今後も長く保全されていく可能性が極めて高い。仮に今後多くの人知れぬ努力が必要だとしても、いわばこの25年で先の25年が垣間見えると、私たちには感じられた。 
 今回の受賞作のすべてが1990年代、バブル崩壊後に竣工した建物だが、計画はバブル期から行われてきたものと思われる。あの時代、日本の経済は過熱状態に右肩上がりであり、土地の価値に比べれば建築など安いものとされていた。環境配慮や省エネも今ほど重視されていなかった。当時の多くの建物が築後25年から30年を迎える今、様々な意味で淘汰が始まっている。
 人口減少は幾つかの大都市以外では顕著である。人口減少はとりもなおさず公共施設の受益者と負担者を同時に減少させていく。建物の老朽化と合わせて建物の支持基盤を徐々に失っていくという二重に厳しい状況に直面しつつある。そんな中でも、受賞作はいずれも、社会的ニーズ、作品性、意思のある運営管理、建築家の継続的関りなど、多くの意味で共通した強さを持っていると観察された。
 樹林の中で深みをます金山町火葬場、木質空間に円熟味が加わる鳥羽市立海の博物館、清廉さを保つ中原中也記念館、そして変わらずカラフルな黒部市国際文化センター/コラーレである。
 唯一、公共施設ではないサンアクアTOTO本社工場は、新築と見まがうほど新鮮で、SDGs的テーマに25年以上前から継続的に取組み続けてきた実績と、それを支える建築家のデザインに心動かされる。
 受賞作はいずれも建築について多くの学びを与えてくれるものだ。

六鹿 正治