■ 建築家資格制度の経緯 閉じる

公益法人問題と建築家資格

河野  進

  公益法人の監督基準が新しく変わったことに対応して、JIAが公益法人としてあり続けることの是非が問題になっています。そしてそのことが、現在会として積極的に活動している新しい建築家資格制度制定のプロセスにも大きな影響を及ぼすことになると思われます。以下、この間法人問題検討委員会において議論されてきた論点を整理しながら、私見を含めて述べたいと思います。
指定法人問題
'97年6月の建築士法の一部改正に伴い、建築士事務所の業務の適正化と消費者保護を目的として、設計などのトラブル防止と問題処理のための自主的な枠組作りを設計事務所に求め、その要件を整備した法人(団体)を建設大臣が指定する、いわゆる指定法人制度が施行されました。この法改正を主導した建築士事務所協会は既に指定法人の指定を取っており、地方の会員の中には事務所協会との対抗上、JIAも指定法人を取るべしという意見が、かなりあります。当初JIAが個人の集まりであり、事務所業務の適正化を目的とするこの法律には馴染まないのではないかという危惧がありました。しかしJIAの会員は個人とはいえ建築士事務所と同等の業務主体であり、責任主体でもあるという主張は建設省の理解を得ることが出来ました。消費者保護の趣旨もJIAの目的に合致することから、定款の若干の表現変更を除けばあまり問題ないように思われます。問題はむしろ別のところにあります。会員の内の主宰者会員は良いのですが、会員の半数近くを占める一般会員が、個々のプロジェクトの主体であることは説明出来るとして、建築士事務所の法的な責任主体として説明出来るのかという点が問題とされています。一般会員の事務所内部の立場は各々の事務所によっても異なっています。またJIAの入会資格においても主宰者会員と一般会員は、会費に大きな差があるにも関わらず、明確な基準はなく、自己申告によっています。この問題は会のあり方そのものにも関わる重要な問題でもあり、簡単に結論の出せる問題でもないということと、公益法人の新しい監督基準に対する対応の方が緊急を要するということで、理事会で議論の結果、指定法人問題は継続審議事項となりました。しかしながらこの問題については、近い将来に何らかの結論を出す必要があると思います。
公益法人問題
公益法人には、社員によって構成される人的結合体である社団法人と、基本財産の管理運用を通じた活動を行なう財団法人が含まれます。JIAは現在社団法人です。数年前、幾つかの公益法人で不明朗な運営の実態が明らかにされ、第三者によるチェックの必要性などが検討されました。ユ96年9月に「公益法人の設立許可及び指導監督基準」が閣議決定されました。
公益法人は全国に2万7000強の団体(ユ97年10月の調査)があり、内容も様々です。公益法人は積極的に不特定多数の者の利益の実現を目的とするものでなければならない、とされており、公益も営利も目的としない法人は中間法人と呼んで、特別法で法制化されることになっています。しかしながらユ99年9月を公益法人の監督基準に適合させる期限とし、それまでに中間法人の中味を法律で制定するとした約束は未だ果たされていません。
JIAも新たな基準に照らして、社団法人にこのまま留まるとするならば、定款の一部を変更するなどの対応が必要になります。対応すべき点は大きく見て2点あります。
一つは会の目的そのものに関わります。JIAの定款第2章、目的及び事業・第3条に「本会は建築家の職能理念に基づいて、建築家の資質の向上及びその業務の進歩改善を計ることにより、建築物の質の向上及び建築文化の創造・発展に貢献し、以って公共の福祉の増進に寄与することを目的とする」としてあります。この文言と「不特定多数の者の利益……」との隔たりをどのように埋めるのかという点です。もう一点は監督基準の機関(1)理事及び理事会の項で「同一の業界の関係者が占める割合は、理事現在数の2分の1以下とすること。」となっており、現在のJIAの理事の構成を大幅に変更する必要があるという点です。端的に言うならば、建築家職能の確立を第一義として様々な活動を行う同業者の団体としてこのまま続けるのか、公益性を第一とした、市民に開かれた団体としての活動に軌道修正するのかということになります。委員会の議論の中では、この二つは必ずしも矛盾しないのではないかという意見もありました。また本来の職能団体は、市民のためにあるのであり、JIAも建築家だけで集まるのではなく、市民の理解を得るためにも、JIAの理事に市民代表や他の専門職業人を迎えることは、我々の活動にとってむしろ必要なことではないかという意見が強かったと思います。
理事会には、委員会の経過をその都度報告しながら、審議をお願いし、議論を重ねてきました。外部理事の導入については積極的に進めるべきという意見が圧倒的に多かったと思います。むしろ定款の目的なり事業の部分の変更については、じっくり時間をかけるべきという意見がありました。先送りしている指定法人問題の結論次第で再々度定款の書き直しの必要も考えられることから、建設省とも打ち合わせて、当面理事構成のみの変更を行なえば、目的及び事業の部分は現行のままでも差し支えはないという感触を得ています。従って、当面外部理事の導入を含めた理事定数の変更についての、委員会の最終提案が4月の理事会で承認が得られれば、5月末の総会で定数改正を諮りたいと考えています。そして総会で承認されれば、具体的に外部理事の選任に入りたいと思います。
新しい資格制度と公益法人
JIAの目指す新しい建築家資格制度は、自主認定、第三者認定のいずれにしても、社会の側の認知こそが最大の眼目です。本来社会的な資格とは、社会が必要とし、期待をし、大きな権限を付与すると同時に、大きな責任も負うものです。従って資格の中味、要件は本来社会の側が決めるべきものだと思います。しかし伝統的に大工さんのような設計施工一貫のシステムでやってきた日本では、近代的な独立した専門職業人としての建築家という職業の社会的役割と必要性について、社会の側の認識が不充分であることも事実です。
だからといって同一の業界の人間だけが集まって、自分たちの社会的役割やそれに必要な資格を決めてしまうのは、事柄の性質から見ても適切なやり方とは思えません。いかに我々が公平に、社会のために中身を吟味していると主張しても、その議論が社会に開かれ、社会の側からのチェックがなされていない限り、自分たちの利益擁護のための運動と言われても、有効な反論をし、理解を得るのに骨が折れるように思います。
外部理事の積極的意味
今回の公益法人の新しい監督基準に対応して、外部の理事に加わってもらうことの積極的な意味は大きいと思います。
我々の活動が社会から遊離し、独善に陥らないように第三者のチェックを受けるという意味以上に、むしろ外部理事に議論に加わってもらうことにより、社会が本当に必要としている建築家の役割やあるべき資格制度について、立場を変えた議論ができることが重要だと思います。その話し合いを通じて我々の目指すところを理解してもらい、片寄ったところがあれば指摘を受けることにより修正をすることで、真に公共公益に資する資格制度になり得るのではないかと期待しています。各職域、各地域において建築家の理解者、応援団になってもらえる人、あるいは適切な批判をしてくれる人に理事に就任していただきたいと思います。諸先輩以来続けられてきた、建築家という職業を社会に知ってもらい認知してもらう運動に、新しい可能性を開くものとして、外部理事の導入を考えたいと思います。また、このことは本部の理事会だけでなく、支部や地域会の運営においても同様に進められたら面白いと思います。
多様な市民、専門職業人の参加を
消費者問題や欠陥建築問題に取り組んでいる弁護士さん。シックハウスや環境問題に関心を持つ医師。川の浄化や緑の保全、街並の保存運動などに関わっている市民の方々。あるいは都市計画の専門家、土木技術者など我々の仕事に近い専門家。彫刻家、音楽家などなど、我々が、多くの示唆を得ることが期待でき、また是非我々の運動の理解者になってもらいたい人々は色々考えられます。この人こそという方を各支部から推薦していただき、第三者を含めた外部理事選考委員会(仮称)で候補者を選び、総会で承認する手続きが良いと考えています。
若者が夢を持てる職業に
自由で独立した職業人といわれる医師や弁護士の世界でも、資格者の社会的役割の見直しにからめて、専門教育制度のあり方や実務研修、生涯学習の必要性などについて議論が始まっています。また職業選択の動機についても、経済的な優位性のみに目が行きがちで、公益性が忘れ去られていることへの危機感が語られています。各々の職業についての適性ということについても、しっかりと見極めるシステムが必要とされています。これらの議論はそっくりそのまま、これから建築家を志す若者たちにも当てはまると思いますし、現に建築設計に携わっている者にも多くの示唆を含んでいます。建築家という職業が、これからの若者たちが夢と使命感を持って選ぶことのできる職業であってほしいと思いますし、そのためにも、我々の目指す資格制度実現への活動とJIAの組織改革を併行して進める必要があると思います。
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