JIA新人賞

第23回 2011年度 新人賞

※ 写真・文章等の転載はご遠慮ください。

受賞作品:フラワーショップH(日比谷花壇日比谷公園店)

profile 乾 久美子
photo:加藤 孝司
乾 久美子(乾久美子建築設計事務所)

 

1969年 大阪生まれ
1992年 東京藝術大学美術学部建築科 卒業
1996年 イエール大学大学院建築学部 修了
1996年~2000年 青木淳建築計画事務所勤務
2000年  乾久美子建築設計事務所設立
2010年~東京藝術大学美術学部建築科准教授

 

受賞暦
2008年 新建築賞
2011年 JIA新人賞

受賞作品

フラワーショップH(日比谷花壇日比谷公園店)

Photo:阿野太一

都心の公園に建つ小さな花屋。老朽化した店舗を同規模のものに立て替えた。 敷地のある日比谷周辺には石貼りのゆったりした規模のビルが建ち並んでいるが、そのビル群をミニチュア化したような計画だ 。とはいっても高さはかつての店舗に揃えた7.5mというささやかなもの。そして広さは、やはりかつての店舗の床面積100㎡弱を細切れにした小さな建築群なので、 階高7.5mの空間が、内部からは、まるで大規模なアトリウムのように感じられるものとなっている。

 

 それぞれの棟の4辺はすべてが大きな開口部になっており、また天井の(むしろ遠さと言いたいような)高さがすこし 極端な感じもするので、室内でありながらも室内とは言い難い、開放感にあふれたインテリアが出来た。 公園にうっそうと茂る木々に覆われた空間が、室外でありながらも単純な室外でもないような、穏やかな環境を作り出していることに対峙するには、 建築内外を隔てる境界の曖昧さを追求することが大切なのかと感じた。

 

 天井は遠く、壁はほとんどない。そんな建築のかけらのようなものがあつまっているだけだが、 都市と公園の境界線上に建つ建築として、その文脈を一気に引き受けているように思う。 日比谷界隈の建築の量感、公園のうっそうとした木々、日比谷通りの車の流れ、また霞ヶ関の硬質な雰囲気というように、 それぞれが固有性をもつ風景の、いずれに対しても自然とフィットする多面性が、小さなヴォリュームの中に驚くほどの密度で詰め込まれている、けれど軽い、そんな建築になった。