体で感じる空間
矢田朝士
現代社会では、日常生活において人と自然との接点が極端に少なくなる傾向にある。その上、都市空間や建築空間など私達を取り巻く環境が人工的にコントロールされる傾向が高くなっている。
しかし、いにしえより日本人は自然を恐れながらも尊び、その営みに合わせて生活してきた。そして自然のみせる様々な姿に生きる喜びや楽しみを見い出し、日本文化に取り込み育んできた。
そして私は普段から少しでも自然と関わり、常に生を実感しながら生きることを大切にしたいと思っている。
そこでこの住宅では、日常生活の中に自然を取り込み、[コントロールされた環境の空間] と [自然の変化に環境をゆだねる空間] とが併存する住空間をつくった。
建物は、力強く包容力のある洞窟のような外家(Environmental Shell)が生活空間を包み込み、外室を核に諸室が繋がっている。各部屋には外部空間が対で配置され、常に自然の営みと共に日々の生活がある。住み手が体全体で空間を感じることで、感受性がますます研ぎすまされていく。
ある日、建て主の家族は雪が静かに降り積もる様子を寝ぼけ眼で眺めながら起きた。この家では、朝日の輝きを葉先に見つけ、午後のまどろみの中、隣人と縁側で穏やかな時間を過ごす。友人が集まれば土間で騒ぎ、語り合い、そして家族一緒に星を眺めながら風呂で一日の疲れを癒すのである。
この家を訪れるひとが、四季折々の自然の姿を楽しみ、人が自然と共に生きている事をより深く感じてくれるよう期待している。