複雑な距離を織り込む
平田晃久
新潟に建つホンダ汎用機を中心とした小型農機具のためのショールームである。
人が本能的に興味を感じる自然環境のような場所を人工的につくりだすことを考えた。それは、たとえば広い海のなかでサンゴ礁に魚達がひきつけられるのはなぜか、といったきわめて素朴な問いである。見通せない連続空間、少しずつ見え隠れしながら幾重にも奥行きをなしている空間で、人は奥へと誘い込まれながらその都度小さな発見を繰り返す。
5メートルグリッドのコンクリート壁を適宜斜めにカットするだけの所作でこの建築はできている。しかし、平面的に45度振れた斜めの開口は従来のような水平・垂直の秩序とはまったく違う世界をつくり出す。遮断されることをoff、接続していることをonとすればこの斜めのラインはonからoffへの無限の諧調を含んでいる。内部を歩くと、それらが立体的に輻輳しながら展開することになる。遠くのラインはゆっくり、近くのラインは早く動くから、その重ね合わせは予想もつかない複雑な効果を生む。まさに自然環境のような、人間の動物的な部分に訴えかける空間である。
複雑な距離を内包した一体的な空間、プランというツールに縛られない動的な立体性を持った身体に近い空間を、明晰な方法でつくることを意図した。