2006年度JIA新人賞

審査員: 長谷川逸子・竹原義二・渡辺真理 

受賞作品 : 阿佐谷南の家(House in Asagaya-minami)  


小川広次

小川広次(おがわこうじ)

1960年   東京に生まれる
1982年   日本大学理工学部建築学科卒業
1982-83年 計画・設計工房
1983-92年 谷口建築設計研究所
1989年   小川建築設計事務所 所長
1991年   小川広次建築設計事務所 代表取締役
2006年   日本大学理工学部建築学科 非常勤講師

受賞歴
1982年 レモン賞 日本大学より卒業設計において優秀作品賞
2001年 東京ガス賞「あたたかな住空間デザイン」コンペティション
2004年 東京建築賞東京都知事賞 第30回建築作品コンクール
2004年 東京建築賞戸建住宅部門優秀賞 第 30回建築作品コンクール
2006年 第22回吉岡賞
2006年 グッドデザイン賞


阿佐谷南の家(House in Asagaya-minami) 阿佐谷南の家(House in Asagaya-minami)
外観  photo:shinkenchiku-sha 内観  photo:shinkenchiku-sha

「阿佐谷南の家」
小川広次

■都市に於ける、高齢者住宅のあり方
都市住宅の醍醐味は都市の刺激と興奮を十分に受け止めながら、その中に住宅という私的な空間を構築することにある。この住宅を特徴づける重要な要素は、初期のコンセプトモデルの中に浮遊する2つのキューブとして示されている。1つは都市の賑わいを受け止め、住空間の中に誘う装置としての空間であり、もう1つは住居の最も奥まった場所に静かに佇む私的な空間である。そしてこの二つの空間は、3層分を貫く階段によって密接に結ばれている。
前面道路から細いスリットを通り抜け玄関に入ると、5mを越える吹抜空間が現れ、そこでは都市の残響を感じつつも突然の静けさが訪れる。ゆったりとした階段を登りきった3階は2層分の吹抜空間であり、その空間は7枚のコンクリート壁のみによって規定され、壁と壁の隙間が窓となり光と風を導く。プロポーションの異なるスリットは各々の空間に変化を与え、入り隅のない構成は空気が流れるようなベクトルを与える。変化に富んだ断面構成によって光が変化する。

初期のコンセプトモデル
初期のコンセプトモデル

  この住宅は70才余の老夫婦のための高齢者住宅である。3階に主要な空間が配されている背景には、エレベーターの設置やバリアフリーに対する様々な工夫による裏付けがある。中央を縦に貫く、打ち放しコンクリートとプロフィリットガラスによるシャフトは、エレベーターのため以外に、建物全体の自然換気のシャフトとしても機能し、上部をトップライトとすることで自然光で暖められた空気が対流を発生させ、階下の空気を外部に放出する。また、この天空の光は3階のみならず2階にまでも届けられ、一見、閉鎖的に見える外観からは予想もしない光でこの住宅の空間は満ちている。



■町中にあり、いつでも客が来られる家
都市に住み続けることを目的として選ばれた敷地は、青梅街道に面し、JR阿佐ヶ谷駅から商店街を抜けた便利な場所にある。それは都市の利便性を最大限に享受できる場所であり、友人達が気軽に集まれる場所でもある。間口5m程・奥行き18m程の敷地に、希望する規模の住宅とするためには地上3階+ロフトとして計画する必要があった。
3階は友人達を招き入れるための空間である。ここは接客ゾーンとして位置付けられており、いつでも整理されている。宙にはゲストルームが浮いていて、長期の滞在も可能となっている。2階には主要な生活空間があり、その中でも、ファミリールームと呼ばれる夫妻専用のプライベートな空間がひっそりと家の奥にしつらえてある。この場所は一切の人目を気にすることがなく、勝手気ままに生活出来る場所であり、この空間があるからこそ、3階はいつでも客を招き入れることが出来るのである。そして1階は20,000冊にも及ぶ蔵書を収納する書斎として、現在も執筆活動を続ける夫妻を支えている。