で き た て の 空 間
福島加津也+冨永祥子
2002年末、広島に本社を持つ中国木材によって名古屋事業所の公開設計競技が行われた。
木造2階建て・延床面積約1200㎡の事業所では、同社の製品である米松乾燥材と米松集成材を使って、木構造や木工法の新しい可能性にチャレンジすることが必須の条件であった。
審査の結果我々の案が最優秀となり、この時から設計3ヶ月・施工6ヶ月・公開設計競技から1年で竣工というまるでジェットコースターのような計画が始まった。
この設計競技の要項の中で、我々が注目したのは次の3点であった
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中国木材の製品は米松乾燥材の精度や集成材の強度など、工業製品として性能が高いこと。 |
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各部材が住宅用を主目的としているため断面が小さいのに対し、延床面積が1200㎡と木造としては大きいこと。 |
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事務機能だけでなく、中国木材の製品を実際に使ったショールームとして木造建築の可能性を示すような建築が求められていること。 |
木に対する「やさしい」、「伝統的で地域に根ざした」といったこれまでのイメージをできる限り取り外し、木を全く新しい考え方で使ってみたいと思っていた我々にとって、この設計競技は千載一遇のチャンスだったのである。
これらを手がかりとして、小さい断面と木の弱さをうまく利用した架構方法や、建物全体を木のショールームとするために各機能を分割しないでまとめるという大きな方向性が見つけ出されていった。具体的には住宅スケールの木材を吊る・骨組む・積み重ねるという3つの単純明快な方法によって、大(500㎡)・中(200㎡)・小(70㎡)の空間を構成している。
吊屋根部の形状は荷重と木の強度の関係から自然に導き出されたものである。木が柔らかく弱いため、四角い断面で直線のまま美しい曲面が可能となった。
前例のない構造コンセプトや短い設計・施工期間などから、この建築がある種の新しさと共に、考えてからすぐにつくった、というスピード感を持つことは予想していた。しかし、新奇さや勢いだけ、ということには留まりたくなかった。実際に体験して心地よく、美しい建築を目指すためには、設計者であるわれわれにこそ新しい建築の価値観が必要だ。ここでは、それは料理などで使われる「できたて」というイメージであったように思う。素材の新鮮さや作ってすぐの「できたて」をおいしいとする料理のようにこの新しさやスピード感を空間の気持ちよさとして感じさせることができたならば、アイデアの奇抜さを競い合う袋小路に陥ることなく、経験や技術ともよい関係を保ちながら、いつまでも新鮮で不思議な空間であり続けることができるだろう。