西所沢の住宅
佐藤光彦
見慣れた平面図や断面図を,少しずつ違った方法でトレースし直してみる.
たとえば,平面図を引き伸ばして敷地の輪郭に重ね合わせてみる.壁や床や家具をすべて同じ表層として扱ってみる.あるいは,既に「打放しコンクリート」という記号となってしまった壁に,薄くモルタルを塗り重ねてみる.室の仕上げをほんの少しだけ削ってみる.
そのような作業によって,少し異なった建築の状態があらわれてくるのではないかと考えた.
この建物は東京近郊の住宅地に計画された,夫婦と3人の子供のための住宅である.敷地は南北に細長い矩形で,面積は40坪弱,都内で設計してきた住宅の敷地面積と比較すると2倍近い.当初は平屋のコートハウス案なども考えたが,コスト(57万円/坪)も考慮して,木造総2階を基本とすることで検討を進めた.
その際,できる限り単純に,平易に記述できるような平面となるように心がけた.
住宅の平面によって家族のあり方や新しい生活の提案をすることに興味がない(建主の生活に踏み込む必要がない.nLDKで十分である)からでもあるし,そのようなフツウの建物を,少しずつ異なった解釈と操作で取り扱うことによって,どこまで異なった様相の建築となり得るのかを試みたかったからでもある.
この住宅の平面は次のように記述できる.「1階はワンルームのLDKで中央のコアが浴室,2階は中廊下の両側に寝室が並んでいる.敷地の南側半分は庭で,コンクリート製のテーブルがつくりつけられている」.
総2階という規模に設定すると,建物は敷地のほぼ半分を占める.さまざまな配置が考えられるが,ここでは道路側に寄せてボリュームを配置し,南側に庭を残すというオーソドックスな方法を採用した.残された敷地と建物の関係については,「庭と建物」あるいは「外部と内部」という関係としてスタディするのではなく,
1階の平面を南北方向だけ拡大コピーして敷地に重ねてみるという操作をした.これによって,本来は内部にあるテーブルが外部にはみ出し,キッチンカウンターが異常に長くなっている.
また,この敷地は前面道路側と南側とでレベル差があり,腰までの擁壁が必要となるので,キッチンカウンターの高さまでをRCとしている.この断面もそのまま外部にも延長されるため,庭と建物全体を低い腰壁で囲んだ「ハーフコートハウス」とでもいうような状態となり,同時に通常の床と壁という分節から逃れられてもいる.
建物が「住宅」である場合の特徴として,比較的狭い空間に高密度でさまざまなものが存在し,それらの数や配置は流動的に変化し続けるということがあげられる.それらすべてをデザインしコントロールすることなど不可能だし,するべきでもないが,建築家が設計した部分とそれ以外のものたちが「ごった煮」のような状態になることを回避するために,異なったスケールを導入したり,分節の状態をずらしたりするような操作は有効であると考えた.
子供部屋の床・壁・天井・家具はすべて構造用合板で仕上げられ,2階の廊下に相当する部分では内側からのプロポーションで立面の外形が決定され,廊下であると同時に1階への採光装置になっている.庭側の外壁と床と隣地境界のブロック塀は同様にモルタルで塗り込められている.このような表層や部分のありかた,決定の方法は,インテリアデザインなのか建築なのか,あるいは床や壁や家具といった部位,建物や部屋の機能の違い,内部と外部,構造形式が木造なのかRCか,またはローコストかどうか,といったヒエラルキーを越えて取り扱えるのではないかとも考えている.