ナチュラルエリップス(英文タイトル NATURAL ELLIPSE)
遠藤政樹
敷地は繁華街渋谷の外れ円山町に位置する。そこに2世帯分の集合住宅を計画した。
こうした条件下でのデザインアプローチはいくつか考えられるが、そのひとつとして、外部に閉口し、その内部に良好な環境をつくり込むデザインがある。いわゆる中庭型といわれるものである。しかしそれでは、このようにインモラルな敷地を進んで購入したクライアントを満足させることはできない。また逆の、周囲のラブホテルと競い合うデザインによっても、いずれその結果は街に呑み込まれてしまうことも確実に予想された。
どちらも、都市というものを、動かし難い大前提として受け入れてしまったところからの出発となっていて、それでは生活が都市に追いやられたものになってしまう。だからその中で、これまでの建築的常套手段となる空間なり、空間的価値に起因する道徳的感情による生活のデザインを組み立てても、それは本質を外したところでの解決でしかないように思われた。しかしそれは、何もこうした特殊な敷地条件に限ったことではなく、いずれの都市における住宅をデザインする際にも、つきまとう問題でもあると考えられた。都市もアプローチによっては、様々な様相をもって現れてくるものと考えなければならない。
したがって、都市と生活の関係を均衡化させる建築のあり方を考えた。その時建築というものは、都市からの表面とも、生活内部のからの表面ともなるもので、その境界面が都市化、建築化された建築となる。建築デザインプロセスというものも、内で起きている問題と外で起きている問題を瞬時にフィードバックさせ、それに基づいて形を自在に変化させることの可能なフットワークのよい機構をもつものにする必要があった。楕円形をしたリングは、そうした行為を可能にする手段として、この建物の鍵となっている。その幾何学の特徴である長短辺の比率を変えることによって、内部からの面積の割り振りにも、あるいは、外部の斜線制限や敷地境界との絡みからくる周辺条件からも、満足いくように形の調整を行えるものだからである。具体的には、PL—22×100の楕円リング24枚を水平の楕円軌道に沿って並べ、それをストラクチュアとし全体形を成立させている。こうして完成した全体形は、風船を膨らませて、内外圧が釣り合った平衡状態にあるような形であった。しかしあくまでも、内外の問題を調整した個々の楕円リングが楕円軌道上を無数に集合して繋がった形としてみなしている。したがってこのリングが繋がったシームレスさを、不燃性の高いFRP材を選択し、ケイカル板下地にガラス繊維を張り、それを樹脂で塗り固めるという現場湿式方法によって、それを可能にしている。