この住宅は仕事を持つカップルと2人の子供のための住まいである。形態上は核家族だが、夫婦が共にプロフェッショナルであるこの家族は私たちのいう「非核家族*」の性格を多く持っている。このような家族にとっては「LDKと個室群」という核家族の理想像を前提にした住まいの形式はもはや通用しない。私たちは数年来「CPS*」というキーワードを基に現代の住まいについて模索し続けてきたが、私たちの考えとこの住宅のクライアントの要望とにオーバーラップする点が多いことに気づいた。
三方を建物で取り囲まれた典型的な都市型の敷地の中に約500立方メートルのヴォリュームを壁で囲い込んだ。このヴォリュームのうち個人のための空間(サテライト*)は70立方メートルで、残りの約85%にあたる430立方メートルが家族のための空間(コモン*)として確保された。
1階には吹き抜けを介してライブラリーと食事室が設けられている。この家族にとってはライブラリーが家族のための共有空間なのである。ライブラリーは学習や作業のためのスペースであり、また学習の合間の憩いの場としても機能する。作業机としてのカウンターは親子ともども一列となって向う形式が選択された。
食事室とキッチンは一体として考えられた。とかくキッチンは女性がひとりで作業をする場としてとらえがちだが、この家族にとっては調理は誰もが参加しなければならない作業である。そのためにも誰もが道具や物のありかがひとめでわかるように、キッチンは扉をいっさい設けない完全なオープンスタイルとなった。
私室(サテライト)はライブラリーの真上に並置されている。サテライトでは最小限のプライバシーが確保できればよいという、この家族の明快な姿勢に基づいて私室の面積が割り出された。サテライトはスライドするスクリーンを吹き抜けに向けて開閉することで全体の住まいの一部となることも、また私室となることも可能である。サテライトはそれぞれ専用のブリッジを持っている。このブリッジは2階のテラスとワードローブを経由する外部階段からのアプローチとしても通用する。
ワードローブは大型引き込み扉でテラスと一体化する。そうすることで全面的に外気に開放された洗濯物の乾燥室も兼ねている。
*この用語については「孤の集住体」住まいの図書館出版局、1998年を参照 |