日本建築大賞

2010年度 大賞

※ 写真・文章等の転載はご遠慮ください。

犬島アートプロジェクト「精錬所」

設計者: 三分一 博志 (三分一博志建築設計事務所)

犬島アートプロジェクト「精錬所」外観
撮影:新建築社
犬島アートプロジェクト「精錬所」内部
撮影:阿野太一

三分一 博志

三分一 博志

名 称: 犬島アートプロジェクト「精錬所」
建 築: 三分一博志建築設計事務所
企画運営: 財団法人 直島福武美術館財団
アート: 柳幸典

 

犬島は古くは石の産業で栄えたが、近代化にともない1909年には銅の製錬所が設けられた。しかしそのわずか10年後には銅の暴落によって閉鎖された。製錬所は経済がもたらした負の遺産となり、それから100年近くも放置され手つかずの廃墟となっていた。

目指したのは、将来変わることのない自然のエネルギーによって導かれた、風と共に巡るアート空間である。館内に吹く風は既存の煙突による効果と、その上昇気流を促進させる太陽が動かしている。風の温度は土が冷やし、また暖めるのは太陽である。風の速度は温度によって決まり、調整は窓の開け閉めで行なう。 光は空から導く。鏡によって幾重にも反射した自然光が地中の細長い道を照らしている。館内の環境は自然エネルギーのみによって調整され、人々は風と光に導かれてアートを巡る。

風と光の空間を抜けると、地上には植物の庭がある。その植物の栄養は島を訪れる人々の排泄物によってもたらされる。来館者が増えるほど植物が成長し、土壌下の建物はより熱的安定性を増していく。歳月を経て収穫された果実は、訪れた人々に養分を与えてくれる。
そこに建築が存在することで、人が植物や太陽・土・水・空気等とともに地球の循環の一部となっている。このことこそが人が永きにわたって地球に認められ、建築が使用し続けられる、地球のディテールであると考えている。

 

現在、島民の約半数が何らかの形でこの美術館に関わって働いており、過疎高齢化が進んでいた「犬島」には、この美術館ができたことで活気が生まれている。

三分一博志

瀬戸内海は日本の原風景の自然が残り日本で最初に国立公園に指定された世界に誇れる最も美しい場所のひとつです。私は「在るものを活かし、無いものを創る」という理念のもと、瀬戸内の自然を生かしながら、お年寄りの笑顔の溢れる場所こそ、この世の楽園であるとの信念を持って建築と現代美術を活用してその再生に取り組んでいます。

福武 總一郎