敷地はすでに美しい景観であった。北側が海に面し,東西南を山に囲まれた,広大な公園の一部である.
こうした都心から離れた郊外型の美術館はどうあるべきなのか。都心から離れてはいるけど、環境はいい。この環境をどう利用するべきなのか。まず、はじめに横須賀市の美術館準備室の人たちとそういうことを机を囲んで何度も話し合った。
都心から離れた豊かな自然環境だからこそ成り立つ美術館。我々は話し合いを通してそれを、「滞在型美術館」と呼んだ。単に絵画を楽しむだけでなく、レストランで食事をしたり、ワークショップに参加したり、もちろん海で泳いだ帰りに立ち寄ることもできる場所である。敷地の特徴的な地形に埋め込まれ,ランドスケープと一体になった美術館である。
経年劣化や、塩害の影響が大きい敷地の条件を考慮し、レストランやワークショップルームといった外部に対して開放可能な諸室を外周部に配し,デリケートな展示・収蔵棟は巨大なシェルターで覆い、中央に配置した。展示棟・収蔵棟のシェルターは、塩害に強いガラスで外側を覆い、その内側をさらに、薄い鉄板の被覆で覆った二重のシェルターとした。鉄板は継ぎ目のない平滑な被覆をつくりだす。内側にいるとコーナーが曲面になっているので、どこが入り角かわからない。より包まれた感覚を与えてくれる。その鉄板の被覆に外側の風景に応じた丸穴をあけた。森の深い緑や海を行く貨物船がそれぞれの穴から見える。来館者はこの巨大なシェルターで覆われた内部空間を巡りながら、様々な体験を楽しむことができる。
外から見ると環境の一部であるような、環境に対して開かれた美術館だけれども、中に入ると外とは全く異質な空間を体験できるような美術館である。 |