21世紀のグスク
外観は、那覇市の新都心天久の丘の中心にそびえるグスクをイメージしている。単体の建築ではなく、隣接する中央公園から繋がるランドスケープの丘となる建築を目指した。
薩摩侵攻以前に築造されたグスクのやわらかい曲線や琉球石灰岩の優しい質感をプレキャストコンクリート板(以降PC板)のダブルスキンにより表現した。素材は白セメント、琉球石灰岩、海砂(サンゴ)で、表面をラフに削り風合いを出している。
ダブルスキンとすることで、外壁への強烈な日射の熱負荷を遮断し、台風の暴風雨から外壁や開口部を守っている。ダブルスキンの隙間は、外樋の配管スペースや吸排気チャンバーの設置スペースなどに有効活用している。
全体構成
建築の構成要素は箱を積み重ねた形状の建築本体とその外壁を被うプレキャストコンクリート版の外皮、エントランスホールを覆うツリー状柱に支持された鉄骨架構の3部からなる。
・プレキャストコンクリート版の外皮
プレキャストコンクリート版を箱状の本体に斜めに立てかけ出隅・入隅などを曲面とすることで、グスクを想起させる外観とした。材料には白セメント、粗骨材に琉球石灰岩、細骨材に海砂(サンゴの細かくなった砂)を使い、表面を削りだすことによって琉球石灰岩に近い素材感を得た。機能的にはダブルスキンとすることで、強烈な日射・暴風雨などの過酷な自然環境からの負荷を低減し、博物館・美術館にふさわしい安定した内部環境を造り出すことに寄与している。
・ツリー状屋根架構
本体中央25m×40mエントランスホールの吹き抜けにはツリー状の柱10本によって支持されたフラットな屋根を架けた。沖縄の特色あるウタキに木漏れ日が落ちる様をイメージした空間である。
・建築本体
RC造の建築本体は内外を白ペンキ仕上とし、戦後の米軍住宅から広まった現代沖縄建築の標準的な仕様を踏襲している。30センチ厚の壁に柱を内包する構造とすることで躯体内面の凹凸を減らし、特に収蔵庫・展示室等の入子構造部分の設備系の取廻しに配慮した。
□PC外壁面の孔形状と開口廻り
孔の形状は施工性や耐久性への配慮は当然のこと、埃や水滴によるかび汚れに考慮し、擬似ハート型とすることで水が切れるようにした。版全面には親水型の塗装を施し、自浄作用をもつよう配慮している。
また開口部廻りにはエッジの保護と滴受けの樋の機能を併せもつ三方枠を設け、下部の排水溝へ流れる仕組みとした。
木陰の空間
エントランスホールは、木漏れ日の空間をイメージしたものだ。
沖縄では、木漏れ日の空間をコミュニティの交流の場として尊重する風土がある。昔の集落には湧き水があふれる水場があり、その横にはガジュマルなどの大木が陰を落とす。石畳の広場が交流の場としてあった。
また、沖縄独特の祭祀の場・嶽(ウタキ)にも、樹々に囲まれたサンゴの砂が敷き詰められた木漏れ日の広場があるように、木漏れ日の空間は神聖性を持つ特別な空間でもある。
エントランスホール屋根架構
クバ(沖縄に原生するヤシ科の植物)をモチーフとしたツリー状の柱及び鉄骨の屋根架構の特色は以下のとおりである。
・ツリー状の柱は主に鉛直力を分担し、横力は外周部のコンクリート躯体で負担する。
・柱には大・中・小の3種類があり、枝が広がり傘を支える部分は相似形としている。
・柱には1FLからのものと3FLからのものがあり、3FL以下の部分はまっすぐな鋼管で3FL以上の部分は幹がテーパー鋼管、枝が分かれる部分が鋳鋼、外側の枝が熱押型鋼、上部内側の枝がフラットバーの二枚合わせとなっている。耐火設計を行い大臣認定を受ける事で無耐火被覆が可能となった。
・柱上部の傘状の架構は外周部と頂部トップライトを支える二重のリングとそれを繋ぐ放射状の梁からなっており、内・外の枝がそれぞれ内・外のリングを支えている。
・テーパー鋼管と鋳鋼、テーパー鋼管と内・外の枝を止めるFBのピースは溶接しているが、外側の熱押型鋼の枝と内側のFB合わせの枝とピースの接合は削りだしのピンによって留めてため、ジョイントの溶接痕やボルト頭等がほとんど目に付かないディテールとなっている。
・外側の熱押型鋼の枝はV字型断面をしており、ジョイントピースを内側の谷の部分に仕込めるようなっている。設計上、V字型断面の熱押型鋼及びそのR加工には精度ときれいな仕上がりが要求され、当初製作面が心配されたが、十分満足のいくものが納入された。
耐沖縄性気候の建築
傾斜したが外側のPC版の内側は鉄筋コンクリート造に白いペンキを塗った箱型の建築となっている。
メインアプローチからエントランスホール、展示室、バックヤードに至るまで内部も白いペンキ仕上げを基本とした。米軍占領下において、米軍住宅が鉄筋コンクリート造白ペンキ仕上げで建設されたことがきっかけとなり、民間にも広く同仕様の住宅や商業ビルが普及し、沖縄独特の景観を形成している。空気中の海塩粒子密度の高さから金属の腐食速度が極端に早く、台風が常襲する気候に適した様式と言えるだろう。沖縄県立博物館・美術館においても、風土に適合し、コストパフォーマンスに優れた鉄筋コンクリート造白ペンキ仕上げを採用した。
自然エネルギーの積極的な利用
美術館のギャラリー、アトリウムには、太陽光採光システムを導入している。太陽光採光システムは、屋根にガラスのトップライトを設け、天井内をライトチャンバとし、ギャラリー内に太陽光を導いている。トップライトから入射する太陽光は、自動制御されたトップライトルーバーにより、展示壁上部のウォールウォッシュルーバーに常に一定の角度で入射するよう光学設計されている。ウォールウォッシュルーバー内部に照度センサと連動した蛍光灯を設置し、太陽光と人工光が同じ光学設計光路を通って混合された光をギャラリーに供給している。
沖縄の風土に対応する環境技術 |