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日本建築家協会賞 
「クローバーハウス」
設計者:宮本 佳明 宮本佳明建築設計事務所
クローバーハウス外観
クローバーハウス外観 クローバーハウス内部
宮本 佳明
 クライアントがふと漏らした「遺跡に棲みたい」という言葉に触発されたのかもしれない。雛壇造成された宅造地盤面と既存石積み擁壁を掘削して、吹抜け状の地下室をつくった。さらに宅造地盤上に、それとは別のレイヤーで四周をガラスで構成した平屋を重層させて、両者の間にできた空間を住居としている。原理的には、掘削によって空間は自由に造形が可能である。
住まい手は、父と男の子2人の3人家族である。クローバー形をした天井高4.6mのホール状の空間は家族共有のスペースであり、壁面の彎曲によりさまざまな性格のスペースが生まれる。そこからヤオトン状に横に掘られた天井高2.1mのボックス4つが、個室(勉強部屋)や水回りのスペースである。それぞれのボックスには通風と採光を担うトップライトが設けられている。長く伸びたトップライトの内側はボックス毎に異なる色に淡く着色されており、宅造地盤上にシュノーケルのように顔を出す。
宅造地盤レベルにできた3ヶ所のロフト状アルコーブは、3人の家族に対応して個人の寝所として計画したものである。各ロフトはクローバーの3つの房とネガポジ反転の関係にあるが、さらに外部空間とも積極的に関係づけられるように計画している。たとえば、西側に向いたロフトAからは、遠く六甲山の眺望と夕日をのぞむ。北側に向いたロフトBは、真正面に立ち上がった隣地擁壁をプロジェクションのスクリーンとすることで、いずれも積極的に外部空間を取り込み数字上の床面積の狭さを補っている。
構造的には、当初の計画ではうねる壁面自体がシェルとして有効に働いて、鉄板のみで土圧に抵抗する予定であった。しかし実際には、むしろ北側及び東側隣地からの片土圧によって発生する建物の「滑り」の方が問題となった。そこでまず建物全体を道路側に移動させて片土圧を軽減し、その上で9㎜厚の鉄板を仕上げ材兼用の型枠として山留めとの間にコンクリートを充填することで重量を稼ぎ、滑りに対して重力式に解決することとした。クローバーの形状については、より優美な曲線となるように幾度もスタディを繰り返したが、実際にはコスト調整のためにできるだけ単純な曲率で構成するように改めざるを得なかった。それでもなお、背後に重いコンクリートを背負った、白くペイントされた鉄板の壁面は、意外にも優しく軽く家族3人の生活を包み込んでくれている。
工程は、まずは宅造地盤面と既存石積み擁壁を、ほぼ総掘りに近いかたちで掘削することから始まった。そこに鉄板を建て込んで、すべてを完全溶け込み溶接によってジョイントしている。完全溶け込み溶接とすることにより、鉄板自身が有効な防水層を形成する。但し床については溶接が困難なため、RC底盤の上に湧水処理断熱パネルを敷き並べて二重床としている。鉄板は、掘削工事と同時並行して、曲率毎に18ピースに分割したクローバー壁と4個のボックスに分けて工場で制作したものである。最後に鉄板と山留めとの間にできた空隙にRCを充填して、基礎のような居住空間をつくっている。そうしてその上部に、はじめて建築工事として、ごく緩い勾配の方形屋根を架けている。
鉄板がインテリアとなることによって、いくつかのアイデアが生まれた。ボックスと一体に成形されたステンレス製のキッチンカウンターは、水切りかご、ザル、包丁、ゴミ箱などの形状に合わせて、自由に開口を切り取ったものである。また内壁の仕上げ面が鉄板となったことを利用して、照明デザイナーの角館政英氏とのコラボレーションで、マグネットによって壁の自由な場所に取り付け取り外しが可能な照明器具やタッチセンサーを開発した。さらに今度は、マグネット式の洋服ハンガーなども制作していこうと、クライアントと画策しているところである。