審査員講評


五十嵐太郎
 
 「何が選ばれるかで賞の性格も決まっていきます。第1回は「梅林の家」(妹島和世)。高層ビルに対して小住宅が選ばれました。第2回は「京都迎賓館」(日建設計)。大手の組織設計の作品で、なかなか評価しづらいものをあえて選ぶという意味では意義がありました。今回は藤本さんのような若い新進の建築家でも賞が取れるんだという意味でも励みになったと思います。多様な特殊な施設でありながら、単純に建築を見ているだけではなく、こういう社会と建築のつながり方があるんだなあという意味も含めて、現地で様々な体験をさせていただきました。
 審査の3回とも少しずつ場が違います。何を選んでいくかという中で、評価軸や作品の組み合わせによって変わっていくところもあるのかもしれませんが、各回それぞれ意味があったのではないかと思います。
 実際に使っている現場を見ている見ていないなど、すべて同じ条件で見ているわけではなく、比較しにくいところがあります。また、高層ビルと小さな住宅が同じ土俵で審査されることも含めて、今回も系統がさまざまで、評価の軸がいろいろとあると思います。少し整理すると、美しさ・形態・プロポーションという評価軸。実際に使われている現場を見て、ねらった計画やプログラムとそこで起きているアクティビティを含めていい関係をもっている評価軸。人がどのように振る舞い、集団で生活や活動をするかという評価軸。新しい形式や空間を提案している評価軸など。
 藤本作品は、コロンブスのたまごのようなところがあり、出来上がると、こういうものもあり得るんだなあと思わせられます。図面や写真で見た時の驚きに対し、実際にそこに行くとごく自然に成立している。初めての空間体験であり、新たな形式や空間が提案されている作品として評価しました。」
   
馬場璋造
 
 「7作品を見て、みんな新しいことを何か目指している。モダニズム、ポストモダニズムからも離れて次の模索がもう始まっていると感じました。建築の時代で言うと、21世紀の萌芽が出始めてきている。今までのものにとらわれていないかたちでの表現をされていると、今回の審査で実感しました。
 私が公開審査を提言しました。自分の首を絞めていることになるかもしれないし、恨まれるほうが多いかもしれませんが、やはりこういうかたちで行うのがフェアだと思います。今回の審査員3人が正直にどういうことを感じているか、これをもって結論が出たんだということで皆さんも納得すると思います。
 完成度の高さはみな備えている。今回の審査の基準として、新しいシステムというものにどう取り組んでいるか、その可能性がどれくらいあるのかを考え、協議しました。」
   
中川 武
 
 「自分たちの協会の活動を元気よくやっていく、その一貫の中に顕彰するということがあります。いい作品をつくり、顕彰しながら外部に働きかけていくことが大事なことです。一つひとついい作品をつくる、それは皆さん個人の努力以外にありえないのですが、協会としてはこういう機会にそういうものをどうアピールしていくかということが非常に重要だと思います。
 今回の審査では、建築をつくることがどういうことなのか、ということに対して何をこの作品が貢献するんだろう、あるいは暗示しているのだろう、そういう視点で評価をしていこうと考えました。
 新しい空間の質、関係が基本であって、その関係をいかにつくれるかというのが、設計・建築家の基本的な役割ではないか。社会との関係とか、個人はどう生きるべきか、ということに対して可能性や勇気を与えられるかどうかが基本的なものなのではないかと思います。その意味で藤本さんの作品は素晴らしいものだと実感し、評価しました。」