第18回環境建築賞 総評
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今年も昨年に引き続き、「自然と共にある生活」というテーマで募集を行った。今年の応募数は住宅部門が増加し、また応募案の多くが募集の意味を汲み取っていただき自分の環境に対する独自の考え方を強く持っていて、結果それぞれの作品レベルも大変高かったことは、審査員一同うれしい悲鳴であった。今年度からの特徴として、公開審査に残った作品すべてを「優秀環境建築選」とし、その中から、一般建築、住宅それぞれ「最優秀賞」「優秀賞」各1点が選定されることとなった。選出する作品数が減ったため公開審査では昨年よりスムーズに進行した。
一般部門では、最優秀賞に「YKK80ビル」が選出された。本社機能を有したオフィスビルであり、布を纏ったようなアルミ製簾のダブルスキンのファサードデザインと微風を感じる天井輻射冷暖房などの新しいワークプレイス等、建築全体の意匠・構造・設備のバランスの良さが群を抜いており、満票で選定された。北アルプスを借景に郊外型の研究施設の新たな境地を開いた「YKKAP R&Dセンター」と、透析の医療環境を木構造デザインで提案した「新柏クリニック」の2作品の評価が高かったが、最終投票の結果、優秀賞には「新柏クリニック」が選ばれた。工期短縮のためフーチングまでもPC化を実現した「市立吹田サッカースタジアム」は、その構造的な解決策と直線的なフォルムが新鮮であった。「MIZKAN MUZEUM」と「雲南市役所新庁舎」は、街と川が織りなす風景と自然環境をうまく建築内部に取り込みながら建築を昇華させることに成功した良案であった。 住宅部門については、最優秀賞には、オフグリッドでZEHに挑戦し小さなエネルギーを駆使しながら、豊かな生活を建築家自らが実践している作品「佐戸の家」が選ばれた。
「自然と共にある生活」というテーマが設定されたことで、このような素晴らしい住宅の応募へつながったとすれば有難いことである。最初の得票で審査員全員の支持を受けていたにもかかわらず、決選投票で惜しくも優秀賞となった「ソーラータウン府中木造ドミノ住宅」は、コストを抑えた環境配慮型住居の集合体はどうあるべきかを、建築の技術的にも真正面から問いかけている作品であり、木造ドミノという考え方や敷地中央に共有の通り抜けを作った仕組みは、長い集合住宅の歴史の中でも特筆すべき提案であった。優秀環境建築選に選定された「みんか2013」、「いつも日なた、いつも日かげの家」、「箕郷町の家」は、どれも自然と呼応した新しい住環境つくりをめざしたものであり、構法に関しても新しい提案が見られた。
JIAマガジン346号に「JIA環境建築賞の今までとこれから」という文を寄稿した。そこでも書いたが、歴代の環境建築賞を受賞した作品リストを眺め改めて思うことは, 建築家の「建築行為がなされる土地とそこに住む人間に対する優しさと敬う気持ち」に溢れているものであることである。建築のデザインや性能などの建築行為だけではなく, 低炭素化社会にむけての活動や暮らし方の提案, さらにその根底に流れる思想なども評価されてくる。今年はそれを実践した住宅も現れた。環境装置の集積だけがその答えではないことは明白であって, 本来の目的に適合し特化した建築が用意されるべきだと改めて思う。 来年、再来年と「自然と共にある生活」というテーマを継続し、さらに掘り下げていきたい。特に再来年は環境建築賞第20回の節目に当たるため、この賞について何かの形でまとめをしたいと考えている。 審査委員長 安田 幸一
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