JIA環境建築賞


 
 総評 審査委員長 林昭男
   第4回JIA環境建築賞に応募された作品の数は、住宅部門5点、一般建築部門12点であり、総数において前年度28点と較べて少なかった。このことをどう受止めるかの判断は難しい。いまなお明確さを欠くということもあって、環境建築と呼べるような作品がまだ少ないのか、また応募し難いバリアー(例えば、エネルギー消費に関するデータの添付など)が存在するということがその理由なのだろうか。審査は、まず提出書類によって厳密に行い、住宅部門2点、一般建築部門4点を入選作品とし、現地審査を行った。そのなかから、優秀賞として、住宅部門から「江戸川台の家」、一般建築部門から「日新火災本社ビル」、「キッコーマン野田本社屋」を選定した。
 これまでも審査のなかで、環境負荷の定量化は、環境建築としての評価の基本ではあったが、今回は初めての試みとしてJIA環境行動委員会の作成した「JIA環境建築データシート」に基づくデータが添付された。これは、評価を客観化するための一つの試みであった。しかし、今のところ比較すべき基準が明確でないこともあって、参考程度に留めた。応募作品のなかには、エネルギー、資源、ライフスタイルにかかわる要素技術を積極的にとり入れ、環境建築としての提案を計った作品もあったが、建築としての完成度が充分でなかった。一方、今回優秀賞となった作品は、環境建築としてもつべき要件(採光・換気・蓄熱・修景などへの配慮)を適確に把握し、パッシブな手法で実現していることが高く評価された。いずれも調和のとれた堅実な作品である。
 JIA環境建築賞の受賞作品に共通していることは、建築主の理解と熱意に支えられていることであり、加えて設計者の説得力である。
 JIA会員にとっていま必要なことは、「地球環境・建築憲章」の理念を実務のなかにとり込む努力を日々重ねて行くことではないか。
 終わりにひと言、JIA環境建築賞の今後のことに触れさせていただきたい。建築界でも新しい試みとしてはじめられただけに、運営は試行錯誤だった。それ故に、作品の募集、審査、発表の方法などについて改善が必要である。
 第5回の準備にあたっては、これまでの経過を総括した後に、①応募作品の掘りおこし、②審査の一部公開、③入賞作品のPRの方法などについて検討し、JIA環境建築賞のめざす方向をより明確にして欲しいと考える。
 そのことが、環境建築を何か特別扱いするような風潮をなくし、発注者にとってもJIAの会員にとっても身近な存在となる近道ではないでしょうか。
 審査員のメッセージ
   環境建築賞を巡って            岩村和夫
   JIA環境建築賞も今年で4回目を迎え、研究者ではない実践的な建築家の側から見た「環境建築」へのアプローチにも、おおむね以下のような特徴に収斂してきたように思われる。
1.町屋や農家の保存再生のような、建築文化のストック改善や継承の取組み
2.主にラージファームによる安定した環境技術を駆使した新築建築物
3.実験的な先端環境技術にチャレンジした新築建築物
4.参加型のまちづくり等、地域における集合的な環境形成の取組み
5.従来型の建築計画・設計を環境配慮の観点から読み替えた取組み
 このことは、積極的なものから消極的なものまで、環境建築を巡る価値観や理解の多様化を示すものであるが、今回初めて提出を課した設計自己評価シートやデータシートの内容も含め、本顕彰制度もこのような実態に即した仕組みの改善が必要な時期に来ていると思われる。

   環境特性を身体化しつつ意識化しよう   宿谷昌則
   私たちが頭の中に思い描くイメージは、当たり前の話だが、
五感への入力が基本となってつくられる。私たちの身体を取り囲む光の振る舞いによる明るさ・暗さ、音の振る舞いによる静けさ・騒がしさ、熱の振る舞いによる温かさ・冷たさ、空気の振る舞いによる爽やかさ・息詰まり、水や食べ物による甘さ・塩っぱさ・辛さ・酸っぱさ・苦さ   これらが重なり合い繋がり合って、あるイメージがつくられる。
 建築家が何かの建物をイメージし設計して実現するまでに至るプロセスも、結局のところ、五感への絶え間ない入力を基にしてつくられてきたイメージ、すなわち、その建築家の経験が、建物という〈形〉へと出力されることに他ならない。"感性を研ぎ澄ませ"と言われる所以である。
 イメージはすなわち〈意識〉だと思われがちであるが、イメージの背景に〈無意識〉の働きがあることを見逃してはならない。犬や猫に私たち人と同じような意識はないが、犬や猫はその分、私たち人に比べると無意識の働きを表に現わしやすい。例えば、冬に猫の行動を見ていると、彼らが〈温もり〉を見つけ出すのが如何にうまいかがわかる。同様に、夏に犬の行動を見ていると、彼らが〈冷たさ(涼しさ)〉を見つけ出すのが如何にうまいかがわかる。犬も猫も環境特性をよく〈身体化〉している。
 人はどうか?人は、古代人から現代人に至るプロセスの中で、特に〈身体化〉の脳力を縮退させつつ〈意識化〉する脳力を肥大させてきたのではないか。
 意識の肥大化すべてがよくない、犬猫に戻れ。そういうことを言っているのではない。「環境建築」の運動は、上に述べた犬や猫に見られる研ぎ澄まされた身体化の延長にあるべき人間の健康な意識を改めて創出し直そうということだろう。環境建築を目指す人は身の周りに広がる空間を五感で感じる〈身体化〉を高めつつ、身体化と整合する〈意識化〉を図ってほしいと思う。
 幸い、意識の発達したおかげで、私たち人間はついに今日の情報技術(ICT)を手に入れた。環境を測る技術もその中に含まれる。使いやすく安価(8千円〜4万円)で、しかも精度の十分な温度計や照度計がその気さえあれば手に入る。
 環境建築を目指す人は、巻尺・三角スケールなど昔ながらの七つ道具に、情報技術の粋としての温度計や照度計を加えてほしい。
環境建築は、環境特性の身体化が延長した健康な意識化によって創出されるに違いない。