JIA 25年賞・JIA 25年建築

JIA25年賞受賞作品 登録No.215

※ 写真・文章等の転載はご遠慮ください。

霞が関ビルディング

霞が関ビルディング
竣工時 撮影:川澄建築写真事務所
霞が関ビルディング
現況 撮影:新建築社
 
設計者: 【新築時】三井不動産株式会社株式会社
    株式会社山下寿郎設計事務所(現 株式会社山下設計)
【第1,2次リニューアル工事】株式会社 日本設計
【第3次リニューアル工事】株式会社 日本設計
           鹿島建設株式会社(実施設計)
建築主: 三井不動産株式会社
一般社団法人霞会館
施工者: 【新築時】鹿島建設株式会社・三井建設株式会社 (現 三井住友建設株式会社)共同企業体
【第1次リニューアル工事】鹿島建設株式会社・三井建設株式会社共同企業体
【第2次リニューアル工事】鹿島建設株式会社
           三井不動産建設株式会社(現 株式会社エムズ)
【第3次リニューアル工事】鹿島建設株式会社
竣工年: 1968年4月
所在地: 東京都千代田区
講評:

 霞が関ビルは1968年に竣工した日本最初の超高層建築である。高さ147m、延床面積約15万㎡のこの建築は、高度経済成長の象徴として日本の都市景観の源流を作り出し、それは確かに現在にまで続いている。2000年以降に設計活動を始めた私の世代にとって霞が関ビルはある種の伝説として存在していたが、今回の審査を通して竣工当時の詳細と日本社会に与えた熱い波のような影響を実感することになった。
 この建築は日本最初の100mを超える超高層のため、当時の最先端の技術が数多く用いられている。地震時の変形を許容し変形することによって地震のエネルギーを吸収する柔構造という考え方と、それを実現するためのダイナミックな動的解析、内外装のモデュールシステムによる施工の省力化など、その多くは現在の日本建築界の標準となっている。超高層化という建築的成果は、都心部の床面積を飛躍的に増大させ、地上面に周辺地域と一体整備された広場を生み出した。施主と建築家、施工者が一体となった建設チームの運営、所有者と使用者、管理者が一体となった長期保全計画などを含めて、この建築は間違いなく本賞に値する。一方で、当時の建築界の巨大建築に対する不安感や、カリスマ的な建築家の不在によるデザインの保守性という指摘には、現代の成熟化した日本建築界とも通底する雰囲気を感じた。
 審査時の説明により、さらに詳細な設計時の工夫が明らかになった。この建築の構造や設備のスペースは当時の常識よりも大きく確保されており、避難経路なども法規規程よりさらに安全側に計画されているという。これらの余剰空間は、デザインの保守性という竣工当時の批判の遠因になったと思われるが、実はその後の改装工事の搬入経路に有効に活用されたり、度重なる法規改正への柔軟な対応を可能にすることになった。これはこの建築が後に続いた超高層に比べて長寿命である秘密の一つである。それは経済性や法規規程に乗らない空間を全て削ぎ落すべき贅肉とするのではなく、体を維持管理するために必要な体脂肪率のような考え方のように思う。その適正値は機能や時代によって変化し、この建築によって日本の超高層の体脂肪率の適正値が50年かかって解明されたのだ。それは永い時間をかけた革新性と言えるだろう。
 25年賞の審査は、歴史的名作の時間的変遷を設計者から直接聞くことができる貴重な機会である。建築と時間という関係を考えると、25年という時間は建築が機能から歴史や文化になる途中なのだ。これからもみなさんのさらなる応募と、審査による議論の拡張を楽しみにしている。

  (福島 加津也)