JIA 25年賞・JIA 25年建築

JIA25年賞受賞作品 登録No.178

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田川市文化エリア

田川市文化エリア
竣工時
田川市文化エリア
現況 撮影:株式会社徳岡設計
 
設計者: 徳岡昌克建築設計事務所(現:株式会社 徳岡設計)
建築主: 田川市
施工者: 奥村・久保建設共同企業体、中山組
竣工年: 1991年10月
所在地: 福岡県田川市
講評:

 筑豊の炭鉱の街として繁栄した田川は北に開いた盆地で、中心市街地は2本の川に挟まれた高台にある。そこを東西に横断する道路に面する「田川市文化エリア」の敷地は、北側に眺望が開け、遠賀川に合流して玄界灘に向かう川筋と、かつては多くの炭鉱住宅が広がっていたであろう風景が見渡せる。
 既存の市立図書館を増改築し、美術館、カフェ棟、光のモニュメントを新設した「田川市文化エリア」の特徴をひとことで言うなら、高低差のある敷地全体を建築としてデザインしているところにある。建築としての敷地の主階は、南面する既存図書館が接道するグラウンドレベルにあり、その水平に延びるペデストリアンプレートの中央に図書館、東側に美術館の地上部と屋外展示スペースが配置されている。プレートは図書館の背後から西側のカフェ棟へ至るプロムナード(下部を駐車場とする人工地盤)となり、さらに大階段となって西側の広場に降りていく。そのあり方は「エリア」という名称に相応しいものだ。
 現地を訪問した日は休館日だったが、エリアのいくつものアクセスから人が訪れ、滞留し、巡り歩く様を容易に思い描くことができた。

  (大森 晃彦)

 建築は現地へ行かないと、その価値や意味、設計の意図を正確に読み取ることはできないのではないか、そう思わずにはいられなかった建築である。竣工時に記された設計主旨に、既存図書館の増築や人工地盤の設置について触れられてはいた。しかし、既存の建物に、何がどう加えられてどのような形で環境が整えられたのか、そして、そのことがどのように生きられてきたのか、については、現地を訪れることで初めて理解することができた。
 今でこそ既存建物の活用事例は多いが、旧・図書館を取り壊すことなく、周囲の環境との関係性を慎重に見極めながら、巧みな増築を施し、美術館と喫茶棟を新築し、同時に人工地盤を設けることで、「文化エリア」としての統一感のあるたたずまいが創出されていた。同時に、図書館に併設することで、美術館が地域に根付くきっかけとなった点も見逃せない。そして、奇を衒うようなデザインではなく、炻器質タイルの外壁と銅板瓦棒葺きの屋根による堅実な手法が、結果的に、地域に馴染み、市民に親しまれている建物と成り得たとの印象を受けた。
 正攻法の設計が地域に根付いた貴重な事例として、現代建築に対する批評的な意味を持つものと思われる。

  (松隈 洋)