集合住宅が都市における典型的な住居形態として定着してから相当な年月が経ったが、わが国においては、集合住宅が都市における重要な景観を構成し、市民から親しまれている例はそれほど多くはない。とりわけ、賃貸住宅においては、その成り立ち上、事業採算性や効率性に焦点があてられるため、都市における重要な景観要素として設計され、かつ当初の設計意図を尊重して維持保全されている例は極めて少ない。
福岡市薬院にある浄水オークパティオは、こうした無機質な賃貸住宅のイメージとは無縁の有機的な外観を持つ建物である。大通りから一本入った比較的閑静な敷地に建つこの建物は、2本の前面道路からのセットバック部分に街路樹や植え込みを設け、茶系の窯変調タイルと四角く枠を縁取られた窓が重厚で落ち着いた印象で、周辺の街並みや都市環境に落ち着きと潤いをもたらしている。建物の角から曲線でデザインされた階段で2階のエントランスに入ると、緑あふれる中庭と、曲線で構成された屋外廊下が重層するリズム感あふれる中庭側の外観が目に入る。この中庭は、当初は池を配し、滝や噴水などが設けられていたが、メンテナンス費用の削減や住民要望の結果、現在のような姿になったとのことであるが、居住者の子供たちだけでなく、周辺の子供たちも遊びに来るなど、地域に根づいたコミュニティの場となっている。設計者の当初意図した「外に閉じ、内に開く都市の安らぎの居住空間」というコンセントが今も生きているものと評価できる。
建物所有者は建設当初から一貫して当初の設計思想を尊重しつつ建物の維持管理にあたるとともに、時代の変化に応じた住居内部の改装を逐次行うことにより、築25年を経た現在でもほぼ満室に近い入居率を維持しているとのことで、この建物が居住者である都市住民に、大いに評価されていることが伺える。また、賃貸住宅に求められる事業性を今日まで維持し続けている点も、建物の持続可能性という点で大いに評価できる。
以上により、浄水オークパティオは、JIA25年賞にふさわしい建築と評価する。
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