JIA 25年賞・JIA 25年建築

JIA25年賞受賞作品 登録No.167

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裏磐梯高原ホテル

裏磐梯高原ホテル
竣工時 撮影:広瀬スタジオ
裏磐梯高原ホテル
現況 撮影:吉村行雄写真事務所
 
設計者: 株式会社 竹中工務店
建築主: 株式会社 アサヒプロパティズ
施工者: 株式会社 竹中工務店
竣工年: 1983年4月
所在地: 福島県耶麻郡
講評:

 郡山で乗り換え、小さな猪苗代駅を降りて車で30分。磐梯山を望む素晴らしい景観に向かって裏磐梯高原ホテルは位置している。ホテルとしては小振りで上品な佇まいだが、なにより外壁のウッドシングル葺きの表情が美しい。葺き替えたり補修したのだろうと聞くと、外装はサッシュも含めて33年間変わっていないと言う。その事実がこの建築の本質を物語っている。
 1983年に建てられた現在の裏磐梯高原ホテルは、竹中工務店東北支店の設計で始まったが、その過程で竹中工務店に経営権が移り、実質的に建主・設計・施工が一体となって現在に至っている。2010年より大幅なリニューアルを施し、東日本大震災を経て、2014年に外構も含めた整備が終わったばかりである。リニューアルは25年賞の趣旨からは外れるのだが、改修設計者や建築主・ホテルの方々の話を聞くと、いかにこの建築が愛され、幸せな歳の重ね方をしてきたかが伝わってくる。
 外観はスイス山岳地方の建築風デザインだが、設計者がそのイメージを誠実に設計したことが個々のディテールから読み取れる。改修設計においては、その原設計をリスペクトし、改修箇所を議論した結果として、特徴的な瓦棒葺きの屋根、ウッドシングルの外壁、サッシュ、ロビー、廊下、シャンデリアなど、建築の記憶に関わる部分を意識的に残すことに成功している。客室は現代的な内装へグレードアップしているが、これは宿泊施設の宿命として仕方がない。むしろ、かつての団体客向けの和室中心の客室と比べると、30年の時を経て建築に社会が追いつき、内外のイメージが合致した特異な建築例であると言えるだろう。
 外観は景観に調和した国立公園内のモデルとして知られ、同様のウッドシングル葺き建築を周辺で見ることができる点も素晴らしい。海外には歴史的建築をリノベーションした上質なホテルが数多く、歴史や記憶を感じつつ快適な宿泊体験を得ることができるが、国内の事例はまだ少ない。裏磐梯高原ホテルはリノベーションではないが、1980年代に作られた建築遺産の意味を理解し、その社会資本としての価値を高めて地域の未来へと繋げていこうとしている。その姿勢はこれからの商業建築の在り方として示唆的な試みであることを高く評価し、25年賞建築として敬意を表したい。

  (吉松 秀樹)