審査委員 黒木 正郎
水戸芸術館は1990年に水戸市制百年を記念して建設された音楽・演劇・美術の三部門を持つ総合芸術センターである。当時の佐川一信市長が中心市街地の活性化を文化芸術の力で、と構想したことに始まり、わが国建築界のリーダーであった磯崎新氏を設計者に、後に文化勲章受章者となる芸術評論家吉田秀和氏を館長に迎えている。市の予算の1%を活動資金とする制度を初めて導入したのも当館である。
芸術館はすべての活動を自主企画の自主事業とする、という当初の理念を継承して開館25年を迎えている。三部門にはそれぞれに専任の学芸員が置かれ、現館長小澤征爾氏のもとに世界と繋がる芸術活動を市民に提供している。年間入場者数は10万人ということだが、最近は館外の事業者とも連携した美術展にまで活動は広がっているという。
中庭の芝は開館当初の緑を湛えたままであるが、西側のケヤキの街路樹は大木に育って特色のある外観を親藩水戸の街の深い空気感の中に溶け込ませている。バブル時代もポストモダンブームも、単なる記憶の一片とするにはあまりにも強烈な時代であったが、一つの時代の熱を記録し継承するに最もふさわしい装置は建築であることを思い知らされる作品である。 |
|