第15回日本建築家協会25年賞

■ 水戸芸術館 講評

審査委員 黒木 正郎

 水戸芸術館は1990年に水戸市制百年を記念して建設された音楽・演劇・美術の三部門を持つ総合芸術センターである。当時の佐川一信市長が中心市街地の活性化を文化芸術の力で、と構想したことに始まり、わが国建築界のリーダーであった磯崎新氏を設計者に、後に文化勲章受章者となる芸術評論家吉田秀和氏を館長に迎えている。市の予算の1%を活動資金とする制度を初めて導入したのも当館である。
 芸術館はすべての活動を自主企画の自主事業とする、という当初の理念を継承して開館25年を迎えている。三部門にはそれぞれに専任の学芸員が置かれ、現館長小澤征爾氏のもとに世界と繋がる芸術活動を市民に提供している。年間入場者数は10万人ということだが、最近は館外の事業者とも連携した美術展にまで活動は広がっているという。
 中庭の芝は開館当初の緑を湛えたままであるが、西側のケヤキの街路樹は大木に育って特色のある外観を親藩水戸の街の深い空気感の中に溶け込ませている。バブル時代もポストモダンブームも、単なる記憶の一片とするにはあまりにも強烈な時代であったが、一つの時代の熱を記録し継承するに最もふさわしい装置は建築であることを思い知らされる作品である。

審査委員 田村 誠邦

 水戸芸術館は、磯崎新アトリエの設計により1990年に完成した水戸市の文化施設である。従来の公共文化施設と異なり、コンサートホール、劇場、美術展示室を同一館内に有するだけでなく、運営主体である水戸市芸術振興財団が館内の施設を自ら企画運営していることで高い評価を得ており、当初から建築家が企図し創意工夫した建築空間を十分に活用している。
 水戸市の中心部に位置し、開放的な広場と、特異な外観を持つシンボルタワー、広場正面のカスケードが特徴的であり、水戸市のシンボルとして、広く市民に親しまれ、建築の価値を社会に広めている施設である。毎年、水戸市の予算の1%程度が管理運営費として充てられ、当館の活発な事業活動を支えるとともに、施設の維持管理にも充てられ、施設のメンテナンスは良好に保たれている、東日本大震災の被災時にも、財団、市、施工者、設計者の緊密な連携のもとに速やかに復旧し、中長期の修繕計画も策定済みであるなど、十分な保全計画と体制を維持している。このように、本建物は建築家の思想が現在も息づき、良好にメンテナンスされ、地域に親しまれている点で、JIA25年賞にふさわしい建築と評価できる。