JIA25年賞

第13回 日本建築家協会25年賞 (2013年度)

※ 写真・文章等の転載はご遠慮ください。


 
播磨屋本店生野総本店
設計者: 株式会社 竹中工務店
狩野 忠正(元社員)
天野 直樹、野田 隆史
建築主: 株式会社 播磨屋本店
施工者: 株式会社 竹中工務店
竣工年: 1988年3月
所在地: 兵庫県朝来市
講 評: 緑の濃い山を背景に、茅葺きの大屋根で覆われた場は、多くの人々がイメージとして抱く、良き時代の山里の民家を象徴している。深い軒によって生み出された陰となる自然と一体の空間に、訪れる人々が「家」の原型を想い、ゆったりとした時間の経過を感じ、安堵感を強くする。その実現の為に、茅葺き屋根、小屋組、土壁等の本物の素材と構法により、徹底したこだわりを持って計画した事が、長い時間の経過に充分に耐えてきたばかりではなく、この場の特質をより磨き込んできたと言える。
  (審査委員:平倉 章二)
   
播磨屋本店生野総本店竣工時
竣工時  撮影:大島 勝寛

播磨屋本店生野総本店現在
現在  撮影:古川 泰造
 
志賀町民センター(現・和邇文化センター)
設計者: 徳岡昌克建築設計事務所(現・株式会社 徳岡設計)
徳岡 昌克
建築主: 志賀町(現・大津市)
施工者: 株式会社 戸田建設
竣工年: 1988年3月
所在地: 滋賀県大津市
講 評: 500人収容の小劇場と保健センターを併設した公共施設である。各施設を大屋根の重なりあいによって無理なく連結し、地域の景観に馴染ませた外観を持っている。また中央のバシリカの主廊のようなコリドールも、外観に比べて劇的なコントラストを持っており演出的にも見事である。施工精度もよく、管理も行き届いており25年を経てなお健康な建築の姿を保っている。設計、施工、管理の品質が三位一体となって保たれており同種の公共施設のかがみともなる作品である。地域にとけ込み愛されている建築の姿が鮮烈な印象を残した。
  (審査委員:中谷 礼仁)
   
志賀町民センター(現・和邇文化センター)
竣工時  撮影:村井 修

志賀町民センター(現・和邇文化センター)
現在  撮影:(株)徳岡設計
 
第五福竜丸展示館
設計者: 杉建築設計事務所
杉 重彦
建築主: 東京都
公益財団法人第五福竜丸平和協会
施工者: 大都建設
竣工年: 1976年6月
所在地: 東京都江東区
講 評: シェル構造による、2枚のコールテン鋼の壁面で柔らかく包みこむ、シンプルな建築は、時間の経過と共に、更に強固な存在感を示している。「第五福竜丸」を契機として核廃絶、平和への願いを多くの人々に深く語りかけ、次の時代につなげていく為にふさわしい、寡黙で、素形の様な場を創りだしている。素材を含めた計画意図の明確さは、これまでの運営上の工夫や関係する方々の情熱に支えられた、優れた「時間の計画」である事を示唆している様に思える。今後、この場の活用の仕方や、夢の島の環境変化、木造船保存の技術的課題等への対応が引き続き求められている事に関心を持ちたい。
  (審査委員:平倉 章二)
   
第五福竜丸展示館
竣工時  

第五福竜丸展示館
現在  
 
横浜人形の家
設計者: 株式会社 坂倉建築研究所
建築主: 横浜市
施工者: 竹中・日成建設共同企業体
株式会社 安藤建設(増築工事)
竣工年: 1986年2月
所在地: 横浜市中区
講 評: 「ミナト・ヨコハマ」としてのシンボル的地区に計画され、その時間の経過とともに街並みをつくりだしてきた建築である。山下公園へと続く空中歩廊によって坂倉建築研究所らの「山下公園再整備」の駐車場屋上庭園へと結び付けられ、一体的な丁寧なデザインが施されたエリアを形成している。堅牢な建物であると同時に、様々なスケールへの配慮が深く、管理者にとってメンテナンスに手間がかからない点も評価に値する。細部にいたるまで掛けられたエネルギーを反映するデザインは、時の経過とともに更にその価値が見いだされるであろう。
  (審査委員:山名 善之)
   
横浜人形の家
竣工時  撮影:新建築社写真部

横浜人形の家
現在  撮影:株式会社 安藤建設
 
世田谷美術館
設計者: 株式会社 内井建築設計事務所
内井 昭蔵
建築主: 世田谷区
施工者: 清水・村本・儘田建設共同企業体
竣工年: 1985年11月
所在地: 東京都世田谷区
講 評: 緑豊かな公園のなかに計画され、竣工以来30年ちかくにわたって地域の芸術文化の醸成に寄与してきた。公園と連続的な空間である美術館建築のあり方は、美術館という空間を日常的なものとし、市民と一体となった文化活動を支えてきた。 美術館の姿は成長した樹木とともに砧公園の欠かせない風景となっており、世田谷の砧地域を特徴づけるまでに至っている。建築の細部にいたるまで緻密にデザインされ、その端正さが建築の時間による新たな価値を創出している。(設計者の意図に反して赤く変色した銅板屋根の改善の議論が始まることが望まれる。)
  (審査委員:山名 善之)
   
世田谷美術館
竣工時  撮影:新写真工房 堀内広治

世田谷美術館
現在  撮影:相原 功
 
有楽町センタービル(通称:有楽町マリオン)
設計者: 株式会社 竹中工務店
臼井 真(元社員)
長﨑 駿二郎(元社員)
建築主: 株式会社 朝日新聞社
東宝株式会社
松竹株式会社
施工者: 株式会社 竹中工務店
竣工年: 1期竣工 1984年9月
2期竣工 1987年9月
所在地: 東京都千代田区
講 評: 通称:有楽町マリオンはその名の通り、外装の全体がアルミ製マリオンで構成されたホール、シネコン、デパートなどを複合した「高層大規模複合商業施設」で今日まで有楽町駅前のシンボル的存在となっている。450,000m3のボリュームをもつ立体的な都市として機能するための水平、垂直に設けられたバッファーゾーンによる防災計画や構造計画が意匠と一体的に見事にデザインされている。また既存の道路を取り込んだセンターモールや新たな施設との地下道接続は場所のコンテクストが読み込まれ、竣工当時以前からの継続した時間が流れている。
  (審査委員:石田 敏明)
   
有楽町センタービル(通称:有楽町マリオン)
竣工時  

有楽町センタービル(通称:有楽町マリオン)
現在  
 
角館樺細工伝承館
設計者: 有限会社 大江宏建築事務所
大江 宏
建築主: 角館町(現・仙北市)
施工者: 株式会社 大林組東北支店
竣工年: 1978年11月
所在地: 秋田県仙北市
講 評: 角館の重要伝統的建造物群保存地区の核となる場に計画され、開館以来30年あまり北国の厳しい風雪に耐えながら、伝統的景観に更なる厚みを加えてきた建築である。街並みと連続性を持ちながらも西洋的建築言語と重ね合わせ、またローコスト建築でありながらも細部にいたるまでのデザインが施されている。何度かの小改修が施されメンテナンスもほぼ良好である。年10件近い特別展開催のほか樺細工の制作実演や体験学習の場としても大いに活用され、コミュニティの核を形成しており地域と一体となった建築のあり方も評価できる。
  (審査委員:山名 善之)
   
角館樺細工伝承館
竣工時  

角館樺細工伝承館
現在  
 
ホンダ青山ビル
設計者: 椎名政夫建築設計事務所 椎名政夫
株式会社 石本建築事務所 石井誠
株式会社 間組一級建築士事務所(現・株式会社 安藤・間)
建築主: 本田技研工業株式会社
施工者: 株式会社 間組(現・株式会社 安藤・間)
竣工年: 1985年11月
所在地: 東京都港区
講 評: 青山一丁目交差点に位置している当ビルは創業者の企業理念と哲学が踏襲された曖昧さを排除した首尾一貫したデザインが特徴である。交差点の見通しの良さを重視した道路からのセットバックや東宮御所からの景観を配慮したエントランス配置、安全性や省エネのためのファサード全面に設置されたバルコニーと陰影のあるシンプルな造形などである。竣工後は中長期的なビジョンと修繕計画により、常に時代の先端であり続けるために計画的にリノベーションされ、省エネの目標値を達成している。こうした継続的なリノベーションの取り組みはサステナブルな今日の建築の在り方の好例である。
  (審査委員:石田 敏明)
   
ホンダ青山ビル
竣工時  撮影:川澄建築写真事務所

ホンダ青山ビル
現在  撮影:小笠原岳写真事務所
 
新宿グリーンタワービル
設計者: 株式会社 日建設計
結崎 東衛、村山 博美
木谷 靖孫(リニューアル)
加藤 恒和(リニューアル)
建築主: 西新宿六丁目西第三地区市街地再開発組合(現・新宿グリーンタワービル区分所有者集会)
施工者: 佐藤工業・清水建設共同企業体
竣工年: 1986年4月
所在地: 東京都新宿区
講 評: 初期のインテリジェントビルとして著名である。敷地周辺の市街地再開発事業のパイロット的作品でもあり、敷地内に寺院や、集合住宅も含む。インテリジェントビルとしては当時の技術的制約の中で開口部高さをしぼることなど発想の転換的な設計技術が導入され、今でも有効である。またグリーンと白を基調とした統合的なデザイン計画が施されたが、その後の管理対応においても設計者の構想が受け継がれている。再開発事業としても各種施設がお互いに独立することなく基層部は有機的につながり、植生の成長と相まって、豊穣な周辺空間を醸し出している。
  (審査委員:中谷 礼仁)
   
新宿グリーンタワービル
竣工時  撮影:三輪 晃久

新宿グリーンタワービル
現在  撮影:アーバンアーツ
 
ヒルサイド久末
設計者: 株式会社 SUM建築研究所
井出 共治
建築主: 株式会社 第一ホテルエンタープライズ
施工者: 清水建設株式会社
竣工年: 1985年2月
所在地: 川崎市高津区
講 評: 1985年竣工の本建物は「自然との同居」の言葉がふさわしい建物である。年を経て移設、新設の木々が育ち、どの樹木も自然に還っている。5階建てであるが、周囲を歩いていてそれを感じさせない。本建物は斜面地を有効に生かした集合住宅である。設計者の得意分野なのだろう、完成度の高いものに出来上がっている。竣工時からの住民、そして新しく引っ越してきた住民、共に建物に高い関心と愛情を持ち、ボランティア活動等で大事に環境を維持している様子が伺える。25年賞にふさわしいものと言える。
  (審査委員:山田 曉)
   
ヒルサイド久末
竣工時  

ヒルサイド久末
現在  
 
熊本県立図書館
設計者: 株式会社 安井建築設計事務所
松山 新
建築主: 熊本県
施工者: 清水建設・戸田建設・建吉組・勝本工務店建設工事共同企業体
竣工年: 1985年10月
所在地: 熊本県熊本市
講 評: 1985年当時、元細川邸の庭園にあったボーリング場の跡地に竣工した県立図書館。建設にあっては元の敷地の性格を可能な限り修景し、庭園景観のなかの図書館施設となっている。見通しのよい内部空間をうむプランニング、導線の巧みさが空間体験として心地よい。採用された特殊構法による外装タイルは無駄な維持管理を省きいまだに美観を誇っている。階段手すりの細部、図書館の家具の作り込みも追求され、現在でも大切に使われている。いまだに県内の図書館機能の中枢を誇る管理体制も特筆すべきである。
  (審査委員:中谷 礼仁)
   
熊本県立図書館
竣工時  撮影:エスエス大阪

熊本県立図書館
現在  撮影:安井建築設計事務所
 
外断熱ブロック住宅 高柳邸
設計者: 株式会社 アーブ建築研究所
圓山 彬雄
建築主: T・S
施工者: 三上建設株式会社
竣工年: 1985年
所在地: 北海道札幌市
講 評: 北海道の気候条件に合った合理的な構法としての二重ブロック壁構法の一連の住宅のなかでは比較的初期の住宅である。それゆえ、合理的な精神が随所に反映され、コンクリートブロックの素材感で満たされた即物的でストイックな空間が竣工当時より、内外共ほぼ変わらずに維持されている。ほぼ正方形を70°の角度で等分にずらし、帳壁で囲まれた平面とスキップした断面の構成が空間に動きと開放感を与え、様々な居心地の良い場所をワンルームの中に生み出している。構法の特徴と一年の大半を暖房で過ごす生活スタイルとが合致した風土に根ざした建築のプロトタイプの一つとして評価できる。
  (審査委員:石田 敏明)
   
外断熱ブロック住宅 T邸
竣工時  

外断熱ブロック住宅 T邸
現在  
 
海洋博公園・熱帯ドリームセンター
設計者: 沖縄開発庁沖縄総合事務局開発建設部(現・内閣府沖縄総合事務局開発建設部)
株式会社 日本設計
建築主: 沖縄開発庁沖縄総合事務局開発建設部(現・内閣府沖縄総合事務局開発建設部)
施工者: 竹中工務店・東急建設・小波津組・良三組建設工事共同企業体
鹿島建設・松村組・金正建設・阿波根組建設工事共同企業体
竣工年: 1984年10月
所在地: 沖縄県国頭郡
講 評: 円弧状の壁の重なりは、計画地全体の厳しい風環境を制御し、種々の果樹花木の展示装置として、又、変化に富む回遊空間を生み出し、多様で表情豊かな環境を実現している。温室空間は、機械設備ゾーンを地階に、上部展示エリアをフリーとし、気化熱利用のフォグ・アンド・ファン方式や、装置化された壁面、防錆処理システムなど、高い技術的計画に支えられ、長期に渡ってこの場の質の高さを維持している。
土地の特性を読み込む事から、主要なテーマを見出し、優れた技術的バックアップによる当初からの計画が、自然の豊かさを体現できる、快適な場を熟成させている事を高く評価する。
  (審査委員:平倉 章二)
   
熱帯ドリームセンター
竣工時  撮影:川澄・小林研二写真事務所

熱帯ドリームセンター
現在  撮影:川澄・小林研二写真事務所
 
県民文化の森 岐阜県美術館
設計者: 株式会社 日建設計
佐藤 義信(新築、増築、改修)
三浦 忠誠(新築)、森山 明(新築)
河辺 伸浩(増築、改修)
建築主: 岐阜県
施工者: 大日本土木株式会社
TSUCHIYA株式会社
竣工年: 1982年10月
所在地: 岐阜県岐阜市
講 評: 広い敷地を利用したこの美術館は30年を経て樹木も大きく育ち、景観的に、設計者が意図したであろう周辺環境に囲まれたものとなっている。すべての展示室は1階の中央プロムナードを中心に配置されていて、開館当時の散策しながら芸術鑑賞をする雰囲気は今なお健在である。県民ギャラリーは利用者の人気も高く、必要な機能強化のための増築、物理的劣化に対する改修がなされていて、機能面において良好な状態が保たれている。当時の設計者、建物管理者がいまだに建物に愛情を持ち関わている様は、25年賞にふさわしいものと言える。
  (審査委員:山田 曉)
   
県民文化の森 岐阜県美術館
竣工時  

県民文化の森 岐阜県美術館
現在  撮影:スタジオ村井
 
岡山県立美術館
設計者: 株式会社 岡田新一設計事務所
岡田新一
建築主: 岡山県
施工者: 大林組・鹿島建設・松本組建設企業共同体
竣工年: 1987年7月
所在地: 岡山県岡山市
講 評: 岡田新一氏設計の岡山県立美術館は、岡山市立オリエント美術館に続いて設計を手がけたもので、ともに岡山市のカルチャー文化ゾーンの中心に位置している。開館以来各種の特別展が催され、岡山の芸術家、芸術愛好家にとどまらず、他県の鑑賞者にも愛されている県立美術館だ。この間バリアフリーに関する改修がなされたが、25年を経た今でも竣工時の重厚な雰囲気はそのままである。景観的にも当時と変わらないたたずまいを維持していて、街並形成に無くてはならないものとなっている。25年賞にふさわしいものである。
  (審査委員:山田 曉)
   
岡山県立美術館
竣工時  

岡山県立美術館
現在  
 
大阪城ホール
設計者: 大阪市
株式会社 日建設計
上田 信也
渡辺 豪秀
建築主: 財団法人 大阪城ホール(現・株式会社 大阪城ホール)
施工者: 大成建設・松村組JV
竣工年: 1983年3月
所在地: 大阪市中央区
講 評: 大阪城公園の景観に配慮され計画された最大16000人を収容する大型多目的ホールは、竣工後30年の時の経過と共に、史跡指定地区における風景としての価値を形成し始めている。竣工後20年目に中長期保全計画がたてられ、30年目を機に改修工事が予定されている。ホールの稼働率が84%と全国トップレベルであり、様々な新たな要求性能にも計画的に対応しながら良質な建築のストック保存が行われている。自治体FM課と「株式会社大阪城ホール」、設計者等が有機的に連絡を取り合いマネイジメントされている点も高く評価できる。
  (審査委員:山名 善之)
   
大阪城ホール
竣工時  撮影:フォト共同プロ

大阪城ホール
現在  撮影:河合 止揚