JIA25年賞

第12回 日本建築家協会25年賞 (2012年度)

※ 写真・文章等の転載はご遠慮ください。


 
香川県立善通寺第一高等学校同窓会館「静修館」
設計者: 多田 善昭
多田善昭建築設計事務所
建築主: 善通寺第一高等学校同窓会
施工者: 株式会社 菅組
竣工年: 1987年3月
所在地: 香川県善通寺市
講 評: 歴史的建造物のある地域を背景に量感のある大屋根、棟持柱、芯柱など古代の高床式米倉をイメージさせる直喩的なデザインモチーフを地域に向けたアイコンとして用いながら、それらを近代的な材料特性を活かしたオリジナリティのあるデザインで表現している。一方、内部空間は女性のふくよかな量感のある曲線をデザインモチーフとして、学校の歴史と施設を利用する人々の記憶、出来事など目に見えないものを形象化している。建築を通して、人々の想い、伝統や歴史を継承しようとする姿勢は地域に生きる建築家のあるべき姿を示している。
  (審査委員:石田 敏明)
   
香川県立善通寺第一高等学校同窓会館「静修館」竣工時
竣工時  撮影:古舘 克明

香川県立善通寺第一高等学校同窓会館「静修館」現在
現在  撮影:淺川 敏
 
熊谷守一美術館(現・豊島区立熊谷守一美術館)
設計者: 岡 秀世
旧・ICD建築設計事務所
建築主: 熊谷 榧
施工者: バウ建設
竣工年: 1985年5月
所在地: 東京都豊島区
講 評: 通りに面して2層、奥に半地下+2層。住宅街に控えめ。画家、熊谷さんの蟻の絵が壁に彫り込まれ、緑の木々とともに美術館としてのメッセージ。内側ブロック積み型枠として外側に断熱、コンクリート打設。半地下のコーヒーショップに座ると庭が近い。窓枠が消されて鮮やかな開口。外に合成ゴムを回し、強化ガラスを手前に引くディテール。内部扉はコンクリートの壁に引き込み。圧巻は1階、右奥のギャラリー、床が緩やかな曲線を描いて下っていく。強烈に「ここに建つ建築」を意識化している。設計者のこだわりが見事に形になっている。
  (審査委員:中原 洋)
   
熊谷守一美術館(現・豊島区立熊谷守一美術館)
竣工時 撮影:鈴木 悠

熊谷守一美術館(現・豊島区立熊谷守一美術館)
現在  撮影:鈴木 悠
 
岡上の家
設計者: 杉浦伝宗
アーツ&クラフツ建築研究所
建築主: 杉浦伝宗
施工者: 新東建設、他
竣工年: 1979年5月
所在地: 川崎市麻生区
講 評: 一瞬、ケーススタディー・ハウスを見たような思いがあった。新築時の鉄骨はそのままに、巡らされたガラスがすべて透明ガラスに変えられ、建築としての骨格がさらに明瞭なものになっている。周辺の緑の成長が外からの視線を十分に遮るまでに成長しているためだろうか。崖上の敷地に巡らされた増築、植え込まれた木々の緑のなかに隠れるように巡らされた回廊、別棟は、この建築をさらに魅力的なものにしている。一挙に建てられた建築には見ることのできない、建築の成長の歴史、25年の時間を見る思いがする。
  (審査委員:中原 洋)
   
岡上の家
竣工時  撮影:鳥畑建築写真事務所

岡上の家
現在
 
東京大学工学部6号館をはじめとする 屋上増築
設計者: 香山 壽夫
香山壽夫建築研究所
建築主: 国立大学法人東京大学
施工者: 株式会社 鴻池組東京本店
竣工年: 1975年3月
所在地: 東京都文京区
講 評: 昭和初期に内田祥三によって設計されたネオゴシック様式の校舎群で30年以上前から今日まで屋上増築と大規模改修が続けられている。 増築当時、様式建築の上にコールテン鋼のカマボコ型の最上階をのせる発想はとてもユニークなものとして目に映ったことを思い出す。 今日、この最上階はさりげなく様式建築と一体化したたたずまいを創り出して歴史ある本郷キャンパスの景観を魅力的なものにすることに貢献している。 また、増築と改築により今日の校舎としての役割を立派に果たしていることも確認できたので25年賞にふさわしいものである。
  (審査委員:芦原 太郎)
   
東京大学工学部6号館をはじめとする 屋上増築
竣工時  

東京大学工学部6号館をはじめとする 屋上増築
現在  
 
門司ゴルフ倶楽部
設計者: アントニン・レーモンド
レーモンド建築設計事務所
建築主: 社団法人 門司ゴルフ倶楽部
施工者: 株式会社 竹中工務店九州支店
竣工年: 1960年6月
所在地: 北九州市門司区
講 評: 半世紀以上を経過しロングライフ建築の域を超え、文化財としての価値も見出され始めている。現用し続ける朱色の倶楽部ハウスは老松の林立する「松ヶ江」に展開されるコースに生え、その華美でなくシンプルな佇まいには経年によって獲得された格式をも見出すことができる。保全による価値は30年ほどの経過で一定の判断が定まるものとされるが、リビングヘリテージとしての価値が見出されるためには、地域のコミュニティとの経過が半世紀ちかく必要とされる。今回は特にこの地域に根差し生き続ける建築の文化的側面を評価することとした。
  (審査委員:山名 善之)
   
門司ゴルフ倶楽部
竣工時  撮影:(株)川澄・小林研二写真事務所

門司ゴルフ倶楽部
現在  
 
セントメリーズ・ロッジ
設計者: 小沢 明
小沢明建築研究室
建築主: セントメリーズ・インターナショナル・スクール
施工者: 清水建設株式会社
竣工年: 1987年5月
所在地: 群馬県吾妻郡
講 評: 建物はスキー研修や野外活動の為の教育施設であるためメンテナンスや消費エネルギー、形態デザインの関係はかなり密接でなければならない。建物全体は表面積を小さくするように機能を4層に積層したコンクリートのボリュームと深い軒の出を持つ尖頭アーチの大屋根が掛かるコンパクトな安定した構成であるが、屋根のケラバや鉄骨フレームの線的な要素が巧みにデザインされているため、軽やかさを併せ持っている。時間を耐え抜く、この軽さの表現は確かな材料の選定や精緻なディテールに裏付けられてのことであり、納得できる。
  (審査委員:石田 敏明)
   
セントメリーズ・ロッジ
竣工時   撮影:篠沢 裕

セントメリーズ・ロッジ
現在   撮影:小沢明建築研究室
 
浦安市立中央図書館
設計者: 小宮 朗
佐藤総合計画
建築主: 千葉県浦安市
施工者: フジタ工業(株)(旧・ (株)フジタ)
竣工年: 1982年10月
所在地: 千葉県浦安市
講 評: シビックセンターの一画にある中央図書館は、その市民サービスの質の高さ故に全国から注目され訪れる者が絶えない。この輝かしい存在は、市民の意識の高さを反映した浦安市の堅実な図書館に対する姿勢に起因するのは確かであるが、それだけでなく長い時間をかけて、市民、行政、図書館関係者、設計者、施工者が有機的に連携しながら探求してきた市民サービスのための施設のあり方そのものが誠実であったからに他ならない。受賞を機会に、市民施設の原点を彷彿させる、このような良質な建築のあり方が全国に拡がることを願うばかりである。
  (審査委員:山名 善之)
   
浦安市立中央図書館
竣工時

浦安市立中央図書館
現在  
 
桜台の家
設計者: 阿部 勤
アルテック
建築主: 臼杵洋三
施工者: 東興建設
竣工年: 1986年2月
所在地: 東京都練馬区
講 評: 時が移り、家族の状況の変容は住まいの「佇まい」を変えていく。 建築が、時の流れに沿い、存在感を保ち続けていく為には、その場に対して変わるもの、変わらないものを見極める設計者の意識、感覚が大切になる。 明瞭なプランニング、壁の存在感と、ダイナミックな断面計画、更に光と影、風の流れの差異が、多くの抑揚ある場を形つくり、その基本的な計画意図、空間の質の確かさが、時々の生活の行為、佇まいを豊かに許容し続けてきた事を高く評価したい。外周のコンクリート壁と、時間をかけて育てられた植栽とが,この場の柔らかな環境を象徴している。
  (審査委員:平倉 章二)
   
桜台の家
竣工時  撮影:藤塚 光政

桜台の家
現在  撮影:新建築社
 
サントリーホール
設計者: 木村 佐近、稲垣 雅夫、桂川 清彦
安井建築設計事務所
建築主: サントリーホールディングス株式会社/サントリーホール
施工者: 鹿島建設株式会社
竣工年: 1986年9月
所在地: 東京都港区
講 評: 開業以来5年ごとに改修を重ね、20年経った2007年には5か月間の長期休館を取り全館改修工事を行っている。ユニバーサルデザインや新しい演出や音楽空間の試みに対し最新技術を導入し対応しているが、ホールの音を変えないというコンセプトを堅持している。意匠については竣工当初を忠実に再現してイメージを維持・継承し、25年の時の重みを感じさせることに成功している。25年経ってホールの音が落ち着いてきたと評価されており、良い音をキープするためにあらゆることを試みている建築である。
  (審査委員:上浪 寛)
   
サントリーホール
竣工時  撮影:川澄・小林研二写真事務所

サントリーホール
現在  写真提供:サントリーホール
 
新宿NSビル
設計者: 小倉 善明、浜田 信義、寺本 隆幸、橋浦 良介、松縄 堅
リフォーム担当 水野和則、斎藤裕明、小沢 淳弥、矢倉 芳美
日建設計
建築主: 日本生命保険相互会社/住友不動産株式会社
施工者: 大成建設
竣工年: 1982年9月
所在地: 東京都新宿区
講 評: 超高層建物の最高高さ競争の時代にあって、安全な超高層をテーマに今までにない形式を提示した建築である。白木屋百貨店以来認められなかった多層階吹抜けの安全性を証明し、建物の中に公共空間を設け、その後に続くアトリウム建築の先駆けとなる画期的な試みであった。竣工後25年経った2006年から2011年まで5年間かけて、大規模な改修が継続的に行われ竣工当時と同じ輝きを維持している。設備的には原設計よりも効率の良いものに更新し維持費の2割程度削減に成功するなど、維持管理者の努力も評価の対象とした。
  (審査委員:上浪 寛)
   
新宿NSビル
竣工時  撮影:新建築社

新宿NSビル
現在  撮影:三輪晃久写真研究所
 
大阪市立東洋陶磁美術館
設計者: 薬袋 公明、横川 隆一、中西 博隆
日建設計
建築主: 大阪市
施工者: 三井住友建設(旧・住友建設)
竣工年: 1982年10月
所在地: 大阪市北区
講 評: 優れた陶磁の鑑賞は、「自然の移ろいの中で」心静かに、作品に向き合う事が出来る場でありたいという発注者の強い想いと、その事を真摯に受け止め、構想し,実現する優れた力とが、しっかりと重なり合い、いわば「共創」により実現し得た場である事が重要である。 光ダクトの計画を始めとしてプランニング、デイテールに様々な工夫をして、質の高い展示空間の実現を目指した、当初の構想理念、密度の高さが、時間の経過と共に、この場に穏やかな存在感を生み出し、地域環境と一体となって人々から愛され続けている状況から学ぶ事は多い。
  (審査委員:平倉 章二)
   
大阪市立東洋陶磁美術館
竣工時

大阪市立東洋陶磁美術館
現在