JIA25年賞

第11回 日本建築家協会25年賞 (2011年度)

※ 写真・文章等の転載はご遠慮ください。


 
スパイラル
設計者: 槇 文彦
槇総合計画事務所
建築主: 株式会社 ワコール
施工者: 株式会社 竹中工務店
竣工年: 1985年9月
所在地: 東京都港区
講 評: 青山通りに面し、都会のにおいを発信し続けてきたこの建築は、劇場とショップ、カフェの動線を魅力的に展開し、巧みな光の空間の中で文化の熟成を実現した都市建築の代表例である。道路カーブに合わせて面をずらし分節し、回遊動線をそのままファサードとして表現しながら、各所に出会いを仕組んだこの計画は25年を経て、なお新鮮で、輝いている。そしてそれを実現したクライアントの豊かな活動は、有能なプロデューサーの 存在に支えられて、日本の都市文化の推進を先導している。建築が関係を育て、空間が文化を支えてきた先例の一つとして、JIA25年賞にまさにふさわしいと考える。
  (審査委員:櫻井 潔)
   
スパイラル竣工時
竣工時  撮影:北島 俊治

スパイラル現在
現在  
 
スタンレー電気技術研究所 本棟
設計者: 阿部 勤
アルテック
建築主: スタンレー電気株式会社
施工者: 竹中工務店・東急建設共同企業体
竣工年: 1985年12月
所在地: 神奈川県横浜市
講 評: 東名高速で東京着を知らせるメタリックな外観は、26年の月日を経て首都へのゲートとしてのランドマークとして定着しはじめている。発光ダイオード、液晶、アモルファス半導体といった、その時代の最先端技術を研究開発してきた研究所を象徴するハイテク・スタイルの本棟においては、ファサードを構成するサンシェードのグレーチング棚が足場を兼ねるなど、メンテナンス・エレメント自体が建築デザインの特徴となっている。発展し続ける先端技術の研究に応える容器としての研究所のデザインは、施主と建築家のお互いの理解によって、「変わり得るものと不変なもの」を見極めたものとなっており、変化に対し対応しつつも価値を保ち続けている。頂部のドーム内の現在の使われ方に課題を残すが、四半世紀を経て全体として時間に対する設計意図が実証された作品といえる。
  (審査委員:山名 善之)
   
スタンレー電気技術研究所 本棟
竣工時 撮影:ヒロ・フォトビルディング/石橋 敏弘

スタンレー電気技術研究所 本棟
現在  撮影:藤塚 光政
 
YKK50ビル
設計者: 吉田忠裕、木村俊彦、遠藤精一、
北村修一、大野秀敏、高須貞夫、
※宮崎浩氏(リノベーション)
YKK50ビルプロジェクトチーム(※プランツアソシエイツ)
建築主: YKK株式会社
施工者: 第一建設株式会社
林建設株式会社
竣工年: 1984年4月
所在地: 富山県黒部市
講 評: 創立50周年を記念し創業者吉田忠雄氏の命を受け、設計と施工合わせて17ケ月という驚異的なスケジュールで完成したこの建築は、ポストモダン全盛の時代にありながら、外部電動ルーバーをはじめ当時の建築技術の粋を集めた近代建築である。建築主自らが旗を振り、 その後も関係者がしっかりと関わり、時代の変化に応じて手を加え、技術と心を伝えてきた。めずらしいコンクリートボールトの初期工場を展示場として改修開放し、さらに一帯を森として再生しようとする壮大な計画は、地域と建築の可能性をあらためて感じさせてくれる。
  (審査委員:櫻井 潔)
   
YKK50ビル
竣工時  撮影:新建築社写真部

YKK50ビル
現在
 
前沢ガーデンハウス
設計者: 槇 文彦
槇総合計画事務所
建築主: YKK株式会社
施工者: 清水建設株式会社
竣工年: 1982年9月
所在地: 富山県黒部市
講 評: 世界企業YKKの国際交流拠点として「前沢ガーデンハウス」は、単なる社内研修施設にとどまらない活動を三十年ちかく繰り拡げてきた。地元の黒部と世界中の人々がお互いの文化にふれあう場所として、槇文彦氏によってイメージされた「大きな家」は月日を重ねることによって、ある種のモニュメンタリティを確立していったといえよう。 日本の伝統的な建築を彷彿させる太い梁が交差するホールには、今までどれだけ多くの人々が世界から集い、そこで語らったであろうか。このホールから見渡す大自然を背景にした美しい庭園とともに醸成した姿こそに、この建築の本来の価値を見出すことができる。それは「心のこもった建築を創るというポリシーを貫いた」設計者の心意気から生みだされたにほかならないが、それだけでなく「大きな家」の主人とそこに集う人々によって、それが丁寧に育まれたことによって結実したのであろう。今回の賞においては何よりその点を評価したい。
  (審査委員:山名 善之)
   
前沢ガーデンハウス
竣工時  撮影:村井修

前沢ガーデンハウス 現在
現在  
 
トヨタ自動車株式会社東京本社ビル
設計者: 三浦明彦、木谷靖孫(リニューアル)
日建設計
建築主: トヨタ自動車株式会社
施工者: ㈱大林組・㈱竹中工務店
・清水建設㈱共同企業体
竣工年: 1982年2月
所在地: 東京都文京区
講 評: このトヨタの東京本社ビルは、1976年から79年にかけて設計され、1982年に竣工した。それはまさに日本の自動車産業が時代の頂点をなしていた時代である。そのようなビルだけに、竣工当初は、車との強い関係が正面のアプローチ空間に現れていたが、二度の大改修を経て、正面中央に歩行者のためのブリッジが設けられるなどした結果、その強い「車と建築」の結びつきは後退し、時代を反映した新しい「人と車」の関係を思わせるものとなった。なお、背後に隣接する小石川後楽園と外堀通りの緑との景観的連続性はいまも健在である。
  (審査委員:細田 雅春)
   
トヨタ自動車株式会社竣工時
竣工時  撮影:クドウフォト

トヨタ自動車株式会社現在
現在  撮影:篠澤 裕
 
ゆりが丘ヴィレッジ
設計者: SUM建築研究所
建築主: 株式会社第一ホテルエンタープライズ
施工者: 鹿島建設株式会社
竣工年: 1986年5月
所在地: 神奈川県川崎市
講 評: 急斜面に階段状に貼りついた住戸のテラスには樹木が生い茂り、25年以上の歳月により環境は明らかに質をたかめている。共に樹木をそだてるうちに環境に対する愛着が増し、住人のコミュニティが形成され維持されていることはすばらしいことである。建築は控え目でシンプルな構成であるが、壁式構造・フラットスラブの住戸内部はのびのびと開放的で、間取りの変更も容易で様々な生活に対応してきた姿を読み取ることが出来た。樹木や人々の生活と共にあった建築は年月を経てその価値をましている。その意味で正にJIA25年賞に相応しい建築である。
  (審査委員:芦原 太郎)
   
ゆりが丘ヴィレッジ竣工時
竣工時   

ゆりが丘ヴィレッジ現在
現在   
 
読谷山窯
設計者: 洲鎌 朝夫(故人)
匠設計
建築主: 大嶺 實清、山田 真萬
玉元 輝政、金城 明光
施工者: 大嶺 實清、山田 真萬
玉元 輝政、金城 明光
竣工年: 1980年3月
所在地: 沖縄県中頭郡
講 評: 琉球の原風景をここに感じる。四人の陶芸家が、自分たちの仕事場を模索して立ち上げた4つの仕事場と共同使用の登り窯。ここ読谷山窯の建築表現を決定しているのは廃材ともいえる。戦前に焼かれた瓦と長さ18メートルもの使用済みの電信柱を集め、そこに野積みの石をあわせている。そこに参加した建築家が洲鎌朝夫さん。形態の決定、セルフビルドがさらなる風景との調和を感じさせる。セルフビルドだからこそ保守もまた自分たちの手で行うことを可能にしている。竣工後25年。周辺のその後の建築表現にも統一感が計られている。
  (審査委員:中原 洋)
   
読谷山窯 竣工時
竣工時  撮影:新建築 松岡満男

読谷山窯 現在
現在  
 
土佐和紙伝統産業会館 紙の博物館
設計者: 上田 堯世
上田建築事務所
建築主: いの町
施工者: 飛鳥建設 中四国支店
竣工年: 1985年3月
所在地: 高知県吾川郡
講 評: コンクリートの打放しと切り妻の瓦屋根、それに墨入りの土佐漆喰、石灰岩の自然素材で構成された深い軒の出は竣工時の鮮度を保ち、まだ暫くは改修を不要とするに違いない。ポーチからホール、中庭へと至る骨太な空間は、永い時間を経ても色あせない、堂々たる風格を放っている。土佐派らしいけれん味のない、作者の人柄そのもの、実に清々しい建物である。「ピカッとカチッとドシッと」は作者の弁。気候風土に淘汰され、時間により証明された確かな技をもって静けさを感じさせ、重たさをもってその地になじむことこそ、求める建築であると言う。地方の建築家の心意気に溢れた、背筋の伸びた佳品である。
  (審査委員:水戸部 裕行)
   
土佐和紙伝統産業会館  紙の博物館 竣工時
竣工時  撮影:新建築社写真部

土佐和紙伝統産業会館  紙の博物館 現在
現在  撮影:坂本 宋志郎
 
株式会社 創和設計
設計者: 石井修 (故人)
美建・設計事務所
建築主: 株式会社ジツタ
維持
管理者:
 
株式会社創和設計 貴田茂
施工者: 清水建設広島支店
竣工年: 1982年6月
所在地: 岡山県岡山市
講 評: 屋上緑化の先駆的事務所ビルである。その外形は、後方にセットバックしながら、段々状のガラス屋根と植栽のためのスラブで構成され、その形がそのまま内部空間を構成しているが、その内部の空間的広がりと開放感は、現在でも新鮮な驚きと開放感に満ちている。建築主は、建設当時とは変わっているが、現在の所有者も当時の設計者の意図を十分に現在に受け継ぎ、その空間の豊かさを活かしている。この建築の特徴である屋上緑化のメンテナンスも極めてよく、街の景観にも程よい開放感とさわやかなランドマーク性を生み出している。
  (審査委員:細田 雅春)
   
株式会社 創和設計 竣工時
竣工時  撮影:(株)西日本写房

株式会社 創和設計 現在
現在